研究課題/領域番号 |
17K07111
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
森 望 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (00130394)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | チロシンリン酸化 / シグナル伝達 / アダプター / Shc / SH2 / PTB / 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
Shc(p66)の遺伝子変異はマウスの寿命を変えることから寿命遺伝子といわれる。それに対し、N-Shc/ShcCとSck/ShcBは脳内での発現の高いShc系ホスホチロシンシグナルアダプターだが、遺伝子欠損マウスの寿命に変化はない。しかし、N-Shc/ShcC欠損マウスは海馬での神経可塑性が亢進しており、一方、Sck/ShcB欠損マウスは小脳での神経可塑性が変化していることが明らかになってきた。本研究は、これまでのShcC研究を母体としつつShcBの未知の機能性を、特に小脳での神経可塑性の分子基盤を明らかにすることをめざしている。小脳プルキンエ細胞でのShcBの機能性に関して興味深い結果が得られてきた。ShcB欠損マウスは小脳依存性の運動学習が低下する。これは以前ロータロッドテストで見出していたが、今回新たに瞬目反射テストでも確認することができた。また、プルキンエ細胞の長期抑圧(LTD)が消失する結果も確認できた。その原因として有力なのは、プルキンエ細胞内の小胞体Ca2+ストアが枯渇していることである。このCa2+ストアの維持に関わる主要な分子としては、Ca2+放出系のIP3受容体とリアノジン受容体、あるいはCa2+取込み系のSERCAポンプが考えられるが、中でもShcB欠損マウスの小脳においてはSERCA2の活性低下があることがわかってきた。さらに対照(コントロール)とした健常マウスの小脳においてこのSERCA2とShcBが相互作用することを生化学的に確認することができた。以上の実験結果から、ShcB遺伝子欠損マウスでの小脳機能の低下の原因は、プルキンエ細胞内でのSERCA2の活性低下によるCa2+ストアレベルの低下にあり、またShcBの新たな機能としてSERCAポンプの活性調節が明らかになってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ShcB遺伝子欠損マウスを用いた行動生理学的実験については、瞬目条件反射学習テストでも機能障害を確認できたことで、小脳でのShcB機能の重要性を確信することができるようになった。マウス小脳の平行線維からプルキンエ細胞へのシナプスにおける長期抑圧(LTD)の機能性が、ShcB欠損の状態で低下していることはその後も繰り返し追試を行い、十分な再現性が得られている。野生マウスとShcB欠損マウスの小脳を用いた生化学的実験(免疫沈降など)と組織化学的実験(免疫染色・蛍光抗体法)からShcBと小胞体膜上のSERCA2分子との相互作用の実態が明らかになって、ShcB欠損マウスでのプルキンエ細胞のシナプス機能低下のメカニズムに迫ることができるようになった。今回のこのSERCA2の関与の発見は重要だが、これが以前同定していたpp135に相当するものかどうかはまだ判然としない。それを追求することが今後の課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
ShcB欠損マウスへレンチウイルスを用いてShcB遺伝子を再導入して機能回復効果の有無を確認する実験のためにShcB含有レンチウイルスの構築を進める。小脳スライスおよび初代培養神経細胞を用いて、これまでに明らかになったShcBとSERCA2ポンプとの複合体を確認し、これに含まれる他の関連分子の実態を明らかにしてゆく。特に以前同定していた分子量135kDの強固なチロシンリン酸化を受ける分子がShcBの直接のターゲットとなる可能性が高いと思われるので、その実態究明を急ぎたい。ShcBおよびそのpp135の神経細胞、特にプルキンエ細胞内での局在状態を高解像度顕微鏡や電子顕微鏡による解析にも力を注ぎたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行に必要な消耗品の多くは教室内で使用可能な他の研究費で賄うことができたので、今年度に限って物品費が少額に抑えられた。次年度以降、マウスの飼育関連費用、神経細胞培養実験、組織染色関連抗体の購入や蛍光抗体法関連試薬、生化学、分子生物学関連キットや試薬の購入、ならびに関連学会での成果発表旅費として、残予算は有効活用する予定。
|