研究課題/領域番号 |
17K07112
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
仲嶺 三代美 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20381105)
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研究分担者 |
鳥原 英嗣 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50757218)
山本 秀幸 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191433)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ErbB4 / Pyk2 / ゼブラフィッシュ / NRG1 |
研究実績の概要 |
統合失調症は全人口に占める発症率が約1%で、原因不明の重大な疾患である。ニューレグリン1(NRG1)およびその受容体(ErbB4)は統合失調症の原因遺伝子として知られており、NRG1-ErbB4シグナルの低下が疾患発症に関与していると報告されている。これまでに私達は培養神経細胞を用いて、G蛋白質共役型受容体(GPCR)の一つであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体刺激によって2つのシグナル伝達機構が存在することを報告した。ひとつは、GnRH受容体刺激によって、ErbB4がトランスに活性化され、MAPキナーゼファミリーの中のERKが活性化される機構である。もう一つは、GnRH受容体刺激によってErbB4が切断され、細胞膜上から減少し、結果としてErbB4-NRG1シグナルが抑制されることを明らかにした。NRG1-ErbB4シグナルの低下は統合失調症発症に関与していると報告されているが、その詳細は不明である。ErbB4は選択的スプライシングによって、膜貫通領域が異なるJMaまたはJMb型が存在するが、最近、統合失調症患者の脳ではJMa型の発現が増加していることが報告された。GnRH受容体刺激によるErbB4の切断はJMb型では生じないことから、JMa型の発現の増加が統合失調症発症と関連があるのではないかと考えている。 本研究ではGnRH受容体刺激後のErbB4の細胞内シグナル伝達機構を詳細に解析する。また、モデル生物としてゼブラフィッシュを用いて、ErbB4のノックダウン胚を作成し表現系を解析する。これらによってErbB4の切断および活性化と統合失調症発症との関与を明らかにすることをめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体レベルでのErbB4の機能を調べるために、モデル生物として小型魚類であるゼブラフィッシュを用いた。ゼブラフィッシュのErbB4をノックダウンするために、ErbB4に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)を作成した。ゼブラフィッシュの受精卵に微量のMOを注入し、発生段階を追って脳の形成を観察した。ErbB4をノックダウンしたゼブラフィッシュ胚は、受精後24時間で脳の形成異常が認められた。さらに、体軸が屈曲し、顕著な発育遅滞が認められた。一方で、コントロールMO(ゼブラフィッシュの遺伝子発現に影響を与えない)を注入した胚では、このような発生異常は認められなかった。さらに、ErbB4のノックダウン胚からトータルRNAを抽出し、ErbB4の発現量を検出したところ、発現量の低下が認められた。このことから、ErbB4ノックダウン胚では、ErbB4の発現が特異的に抑制され、発生初期の脳形成に重要な影響を及ぼしていることが示唆された。 GT1-7細胞では、ErbB4はGnRH受容体刺激によって切断され、細胞質内には80k断片が蓄積することがウエスタンブロット法にて見出された。そこで、ErbB4の細胞膜上からの減少を調べるために、抗ErbB4抗体を用いた免疫蛍光染色法を行った。その結果、GnRH受容体刺激によって、細胞膜上のErbB4が減少している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1、ゼブラフィッシュを用いた解析 ゼブラフィッシュのErbB4をノックダウンした胚は脳構造に異常をきたすことが明らかとなった。今後は、ErbB4ノックダウン胚の詳細な解析を行う。まず、レスキュー実験として、ErbB4のmRNAをMOとともに受精卵へ微量注入し、表現系の回復がみられるかを検討する。また、新しい方法としてゲノム編集(CRISPR/Cas9)によるErbB4のノックアウト胚の作成を試みる。 2、免疫蛍光染色法を用いたErbB4切断片の細胞内局在の同定 切断されたErbB4の細胞質側の80k断片が細胞膜から細胞質に移行している可能性が示唆されたことから、ErbB4の細胞質側を認識する抗体を用いて、免疫染色実験を行い、細胞質内の局在を明らかにする。 3、抗TACE抗体を用いた免疫沈降実験によるErbB4切断に関与するタンパク質分子の同定 ErB4の切断に関与するタンパク質因子を明らかにするために、抗ErbB4あるいは抗TACE抗体を用いて免疫沈降実験を行う。さらに、ErbB4切断を誘発するリガンドの探索を行う。まずは、マイクロアレイの結果を元に、GT1-7細胞で発現しているGPCRを同定する。それらに対する神経伝達物質(キスペプチンなど)を用いて、GT1-7細胞を刺激し、ErbB4の切断を確認する。
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