研究実績の概要 |
現在、高齢化社会が急速に進み、高齢者の認知症予防や治療が急務な問題となっている。主な認知症であるアルツハイマー病(AD)の特徴は神経原線維変化と呼ばれる神経細胞内沈着物であり、その主要成分は異常にリン酸化されたタウである。異常リン酸化タウの蓄積が見られる疾患は他にも数多く知られており、それらは総称してタウオパチーと呼ばれている。ADの他に皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病(PiD) 嗜銀顆粒性認知症(AGD) などがある。異なるタウオパチーでは発病時期、病態に違いがあるが、これらはタウの蓄積箇所やリン酸化の違いによるものと考えられる。研究代表者は以前の研究により、リン酸化の組合せとリン酸化の総量を定量可能なPhos-Tag法を用い、タウのリン酸化解析を行うことで異常リン酸化の実態を明らかにしてきた。今回タウオパチー患者脳におけるタウのリン酸化解析を行った。Phos-tag法を用い、タウのバンドパターンがタウオパチーで毎に異なり、異なるリン酸化メカニズムが示唆された。次にリン酸化特異的抗体を用いてリン酸化部位を分析した。ウエスタンブロットにより、Ser202ではPiD, ADで有意に高いタウのリン酸化がみられ、AGDでは、Ser396にて強い反応を示した。Thr231とSer235は、ADでリン酸化が強くみられた。さらに、AGD, ADは、Thr231の病理学的リン酸化を検出する抗cis p-タウ抗体に対して強い反応を示した。リン酸化Thr231とPro232のペプチド結合をシスからトランスへ変換するPin1イソメラーゼは、AGD, ADで減少した。これらの結果は、タウがさまざまなタウオパチーで異なってリン酸化されることを示し、AGDおよびADにおける高レベルのcis p-タウは、これらの疾患における病理学的メカニズムを示唆した。
|