研究課題/領域番号 |
17K07114
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
金子 奈穂子 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (20464571)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経科学 / 再生医学 / ニューロン新生 / 脳梗塞 |
研究実績の概要 |
我々は、これまでの研究で、成体脳内の脳室下帯で産生された新生ニューロンが、Slit-Roboシグナルを介するアストロサイトとの相互作用により自らの移動経路を維持していることを明らかにした。一方、脳梗塞後には、新生ニューロンは梗塞巣周囲に移動して成熟するが、傷害で活性化したアストロサイトが新生ニューロンの移動を制限していること、Slit-Roboシグナルの増強によって新生ニューロンの移動を促進できることを見いだした。本年度は、Slit-Roboシグナルの増強による新生ニューロンの移動が、脳梗塞後のマウスの運動機能の回復に与える影響を詳細に検討した。
脳梗塞後1週間のマウスの運動機能を3個の行動試験を用いて定量的に評価した。翌日にSlit1発現ベクターまたはコントロールベクターを導入した脳室下帯の細胞を脳室下帯付近に移植し、脳梗塞5週後・11週後の運動機能の変化を比較した。Slit1発現ベクターを導入した群では、2個の行動試験において、有意に機能改善率が高かった。一方、新生細胞がニューロンに分化するとアポトーシスが誘導される遺伝子改変細胞を用いると、この効果は消失した。これらの結果から、Slit1発現ベクターを導入した移植細胞由来の新生ニューロンが脳梗塞後の運動機能の回復を誘導したことが示唆された。
次年度以降、Slit1発現誘導が新生ニューロンの移動促進以外に周囲の組織に何らかの影響を与えている可能性について検討する。また、Slit1発現誘導による新生ニューロンの移動促進が、再生するニューロンの最終的な分布に与える影響を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Slit1依存的な新生ニューロンの移動促進が機能回復に与える影響を解析するため、以下の実験を行った。 1)脳梗塞1週後のマウスに、運動調節機能を反映する行動テスト(自動歩行解析, elevated body swing test, foot-fault test)を行い、機能障害の程度の均一な集団をつくったのち、脳室下帯にSlit1遺伝子とGFPをコードするレンチウィルスを注入し、新生ニューロンにおいてSlit1の持続発現を誘導した。上記の行動テストを、脳梗塞5週後・10週後に施行して、運動の左右対称性の破綻を指標として運動機能障害の経時的変化を解析した。Slit1発現ベクターを導入した群では、elevated body swing test, foot-fault testにおいて、コントロール群に比して有意に改善率が高かった。自動歩行解析においては個体差が大きく、明確な改善率の差は見られなかった。 2)Slit1発現誘導による機能回復が、移植細胞由来の新生ニューロンによって生じたものであるかを調べるため、新生細胞がニューロンに分化するとアポトーシスが誘導される遺伝子改変(Nestin-CreER;NSE-DTA)マウスを移植細胞のドナーとして1)と同様の実験を行った。この遺伝子改変細胞にSlit1発現ベクターを導入しても、機能回復率の上昇は見られなかった。 これらの結果から、Slit1発現ベクターを導入した移植細胞由来の新生ニューロンが脳梗塞後の運動機能の回復を誘導したことが示唆された。 行動実験を終了したマウス脳は固定し、計画通り、来年度以降に組織学的解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
運動機能の回復過程を解析した脳梗塞モデルマウス脳を用いて、Slit1依存的な移動促進が、新生ニューロンの傷害部での最終的な分布位置・分化・神経回路の再生にどのような影響を与えるか解析する。 ①Slit1発現を増強した新生ニューロンの線条体ニューロンへの分化、シナプス形成、軸索の分布を、免疫染色法によって解析する。 ②線条体に投射する大脳皮質深層ニューロン、線条体投射ニューロンの投射先である淡蒼球・黒質に、それぞれ順行性・逆行性の軸索トレーサーを局所注入して投射パターンを可視化し、新生ニューロンの定着場所とこれらの関係を明らかにする。 ③新生ニューロンの軸索伸長過程を、メンブレンフィルターを用いた長期培養下で経時的に観察し、軸索誘導シグナルがない成体脳内での軸索伸長メカニズムを、既存のニューロンの軸索・血管・グリア細胞などの周囲組織やターゲット領域(淡蒼球・中脳黒質)との相互作用を中心に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果が整ってから翌年度以降に発表した方が良いと判断したため予定より出張の機会が少なかったため。 次年度の実験動物の飼育費に充てる予定である。
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