研究課題/領域番号 |
17K07117
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
佐竹 伸一郎 生理学研究所, 助教 (30360340)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 小脳 / グルタミン酸輸送体 / プルキンエ細胞 / バーグマングリア |
研究実績の概要 |
興奮性アミノ酸輸送体(EAAT)は、Naポンプ(Na,K-ATPase)により作り出された細胞膜間Na/K勾配を利用して、神経細胞から放出された興奮性伝達物質グルタミン酸(Glu)の回収を担う。EAATは、神経伝達を速やかに終結させるとともに、過剰Gluの興奮毒性から神経細胞を保護する役割を持つ。光解除性Gluの光遊離に伴い記録されるEAAT電流(photo-uncaging evoked transporter current, PTC)とEAATのGlu輸送モデル(代替アクセスモデル)に基づき、細胞のGlu輸送行程を評価する実験系を構築した。
この評価系を急速発症性ジストニアパーキンソニズム(RDP)/小児交互性片麻痺(AHC)の病態モデルマウス(Na,K-ATPase α3サブユニット遺伝子ヘテロ欠損マウス)Atp1a3(+/-)より作製した小脳スライス標本に適用し、①プルキンエ細胞にて誘発したPTCの振幅が野生型の約1/2に減弱していること、逆に②バーグマングリア(アストロサイトの一種)のPTCは振幅が約2倍に増強していることを発見した。Atp1a3(+/-)では、プルキンエ細胞のGlu回収能が減弱しており、その減弱をグリア細胞が補填していると考えられる。
この神経-グリア補償機構の分子基盤を追究するため、小脳細胞膜画分におけるEAATタンパク質含有量を免疫ブロット法により検討した。Atp1a3(+/-)では、プルキンエ細胞に特異的に発現する輸送体サブタイプEAAT4のタンパク質含有量が野生型の約1/2に減少していた。一方、EAAT1(グリア特異的サブタイプ)の含有量は野生型の約2倍に増えていた。Atp1a3(+/-)において観察された、プルキンエ細胞のPTC減弱とグリア細胞のPTC増大は、それぞれEAAT4タンパク質の含有量減少とEAAT1タンパク質の含有量増大に起因すると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プルキンエ細胞(神経細胞)とバーグマングリア(グリア細胞)の間に存在するGlu回収補償機構の分子的基盤を解き明かすことができた。また、ジストニア/片麻痺の病態基盤に、EAAT発現量の変化に伴う小脳情報処理システムの変異があることを示唆する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
EAAT各サブタイプとNa,K-ATPase各αサブユニットの間の共役関係や神経-グリア補償機構がジストニア/片麻痺の病態において担う役割を追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に即して、実験の効率化を図った。そのため、少額ながら次年度に使用額を残すことができた。
次年度も引き続き、光解除性物質を用いたEAAT機能評価実験を予定している。この実験では、高額試薬を脳スライス標本に高濃度かつ長時間に渡り投与し続ける必要性がある。これら試薬類の購入に充当したい。
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