研究実績の概要 |
興奮性アミノ酸輸送体EAATは、Naポンプ(Na,K-ATPase)により作り出される細胞膜間Na/K勾配を利用して、神経細胞から放出された興奮性伝達物質グルタミン酸(Glu)の回収を担う。これまでに、小脳プルキンエ細胞のEAATは、生理的濃度のエタノールによりそのGlu輸送機能が亢進し、登上線維伝達物質Gluのシナプス外拡散を抑制することを示唆する結果を得ている。
光感受性Glu(RuBi-Glu)の光遊離(光照射時間:500㍉秒)に伴い記録されるEAAT電流(photo-uncaging evoked transporter current, PTC)とEAATのGlu輸送モデル(代替アクセスモデル)に基づき、その細胞のGlu輸送行程を評価することができる。この実験条件にて誘発したPTCは、一過性成分と持続性成分の二つに分けることができ、エタノール(50 mM)は持続性PTCの振幅を選択的に増大させることを発見した(一過性PTCには無効)。エタノールにはEAATのターンオーバー(Glu輸送行程の回転速度)を亢進させる作用があると考えられる。
エタノールのEAAT機能亢進機構を明らかにするため、Naポンプに焦点を当てて薬理学的手法による検討を行った。Naポンプ阻害薬ouabainは持続性PTCの振幅を減弱させた(一過性PTCには無効)。また、エタノールの持続性PTC増強作用もouabainにより消失した。これらの結果は、①EAATのターンオーバーがNaポンプによる制御を受けていること、②エタノールのEAAT増強作用がNaポンプを介して引き起こされていることを示唆している。また、エタノールのEAAT増強作用はタンパク質キナーゼC(PKC)阻害薬GF109203Xにより消失した。一方、PKC作用薬(ホルボールエステル)PMAにEAAT増強作用は認められなかった。エタノールがEAATの機能を増強する作用にPKC活性は必要であるものの、十分な要素ではないと結論した。PKCは、エタノールからEAATに至る機能制御機構の維持に関わるなど、補助的な位置付けにあると推定して引き続き検討を進めている。
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