研究課題/領域番号 |
17K07119
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野村 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (70406528)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 精神疾患 / コピー数変異 / 染色体工学 / 自閉症 / 薬理 / てんかん / GABA |
研究実績の概要 |
本年度は、染色体異常に起因する精神疾患モデル動物として、申請者らが新規に作製した2種類の染色体改変マウス, 15q25.2-25.3および15q13欠失モデルマウスの解析(主に薬理的誘発てんかん発作)を実施した。 15q25.2-25.3は当初精神遅滞・発達障害と相関する領域として報告されたが、自閉症、統合失調症との相関も示唆されている。また15q13は主に統合失調症、そして自閉症との相関も示唆されている。自閉症はコミュニケーションの障害を主とする発達障害であるが、興味深い事にてんかん併発例が非常に多く報告されている。てんかんは、脳神経の過活動に由来する発作と定義されるが、自閉症と併発する理由は不明な点が多い。今年度はてんかん実験系の確立と、精神疾患モデルマウスを用いた解析を主な目的とした。現在、動物モデルを用いたてんかん発作誘発実験は、複数のプロトコールが存在する。しかし、GABAa受容体アンタゴニストであるペンチレンテトラゾール(PTZ)腹腔内投与による薬理的モデルが主要な手法と考えられる事から、本手法を用い、様々な月齢マウスにPTZ投与を実施した。この結果、PTZ投与から発作に至る時間は、マウス間のばらつきが大きく、有意な差を見る事が困難と思われた。このため、UCSDのDr.Ben Philpotにより確立された手法(Neuron, 2016)も新たに検討した。本手法は、PTZ同様、GABA受容体のアンタゴニストと考えられるビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(以下トリフルオロエチル)を用いる。100%エタノールを用い、マイクロインジェクターを用いて密閉ビーカー内に均一のガス状トリフルオロエチルを送り込みマウスに暴露する事から、比較的安定した結果が得られると考えられる。現在まで比較的安定した結果が得られている事から、継続して実験を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
てんかん発作に関する薬理実験、特にGABAaアンタゴニストであるペンチレンテトラゾール(PTZ)腹腔内投与による誘発はマウス間でのばらつきが大きく、実際に精神疾患モデルマウスにおける表現型の同定は難しいと考えられた。一方、新たに実施したDr.Ben Philpotにより確立された手法(Neuron, 2016, 90(1), 56-69)、「マイクロインジェクターを用い、てんかん発作誘発剤(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル)を安定的にガス状でマウスに暴露する系」は比較的マウス間のばらつきが小さく、モデルマウスと野生型マウス間での差を見るには適切な手法と考えられた。現在まで、本手法を用い、latency(暴露から発作に至る時間)を主な判断基準として研究を進めている。このように、てんかん発作誘発に関する薬理実験系の立ち上げに若干時間は要したものの、現在まで実際にモデルマウスを用いた系が動いている事から、2種類の精神疾患モデルマウスを用いた実験を継続して行う。
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今後の研究の推進方策 |
15q25.2-25.3, 15q13染色体変異精神疾患モデルマウスを用い、GABAa受容体アンタゴニストを用いたてんかん発作誘導等薬理学的アプローチを継続して行う。また、脳構造、特に大脳皮質の層構造、海馬CA1, CA3領域、海馬歯状回を中心に脳の各部位における構造・形態解析をゴルジ染色により実施する。脳の構造解析は、脳各部位の構造変化と精神疾患様行動との相関を解析する事が主な目的である。ゴルジ染色は、ミクロレベルでの解析(スパイン)も、同時に解析可能である。特にスパインと精神疾患には有意な相関が認められる事から、特に大脳皮質・海馬・海馬歯状回神経細胞のスパイン(密度、形態)も同時に解析する予定である。本研究は、最終的なゴールとしてレスキュー実験を予定している事から、行動・脳・神経細胞レベルの形態解析から、染色体改変マウスの脳内で変動する遺伝子の同定を進めていく予定である。
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