研究実績の概要 |
本研究は,ヒト発達障害患者で認められる染色体異常を反映したヒト型精神疾患モデルマウスの作製,さらに薬理学的解析をコアとした包括的解析を目的としている. 本年度は主に,ヒト自閉症患者で認められた染色体異常を反映したモデルマウス(15q13ヘテロ欠失)の神経細胞スパインレベルの解析,そしててんかん発作に関する解析を実施した. 自閉症を含む精神疾患では神経系,特にシナプスにリスク遺伝子が集積している.このため,患者死後脳サンプル,疾患モデルマウスにおいて神経細胞シナプスを形成するスパイン(棘突起)の数,形態に異常が認められるケースが多い.実際,15q13領域に含まれるOtud7a遺伝子を欠失したノックアウトマウスではスパイン数の減少,形態の異常が認められている(Yin et al., Am.J.Hum.Gen., 2018).そこで本研究では,前頭前皮質(PFC), 一次体性感覚野(S1)におけるスパイン数・スパイン形態を脳スライスを用いたゴルジ染色により解析した.この結果,PFC, S1ともに神経細胞スパイン数の顕著な変化は認められなかった.また,スパイン形態においてもスパイン数同様,顕著な変化は認められなかった. 一方,てんかん発作誘導実験では,ガス状にGABAa受容体アンタゴニストをマウスに暴露する薬理学的アプローチを引き続き適用した.本手法は,前年度に実験系を確立している.本システムを用いた実験の結果,ミオクロニー発作(myoclonic jerks)数,ミオクロニー発作までの時間(latency),全身の発作(generalized epileptic seizure)までの時間に野生型と15q13ヘテロ欠失マウス間で顕著な差は認められなかった.一方,本期間中に樹立した15q13ノックアウトマウスでは野生型に比べ,ミオクロニー発作数の顕著な増加が認められた.
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