研究実績の概要 |
我々はマウスiPS細胞由来の神経幹/前駆細胞を用いた解析から、アルツハイマー病治療薬であるドネペジルがオリゴデンドロサイト(OL)への分化を促進することを見出しており、本年度はヒトiPS細胞においても同様の効果が認められるか検討した。ヒトiPS細胞から神経幹細胞、ニューロン、アストロサイト、OL前駆細胞、OLへの段階的な分化誘導は既報の方法に基づいて行った。ヒトiPS細胞由来神経幹細胞に対するドネペジルの影響を分化マーカ―を用いた免疫蛍光染色で調べたところ、OL系譜細胞への分化効率に変化は認められなかった。また、ニューロンやアストロサイトへの分化効率にも差は見られなかった。次に、ドネペジルのOL前駆細胞への影響を検討するために、ドネペジルを添加した培地(DMEM/F12, PDGF-AA, IGF-1, HGF, NT3, T3, biotin, cAMP, insulin)でヒトiPS細胞から分化誘導したOL前駆細胞を10日間初期培養した後、分化誘導培地(DMEM/F12, T3, ascorbic acid, biotin, cAMP, insulin)に交換して45日間の長期培養を続け、免疫蛍光染色で分化状態を解析した。その結果、対照群と比較してドネペジル添加群では成熟OLマーカ―であるMBPやPLP陽性細胞数が有意に増加していた。このことから、ドネペジルはヒトiPS細胞においてもマウスiPS細胞と同様にOLへの分化誘導作用を有すると考えられた。
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