研究課題/領域番号 |
17K07122
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
上野 耕平 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 副参事研究員 (40332556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Drosophila / dopamine / retrograde signal |
研究実績の概要 |
本研究は脳高次機能に重要な神経修飾因子ドパミンの放出機序を解明することを目的としている。ショウジョウバエの摘出脳を用いた研究から、ドパミンを受ける後シナプス細胞の活動性がドパミン放出を調節するモードが存在することが見出された(Ueno et al., ELife 2017)。このことは2つの可能性を示している。すなわち、(仮説1)後シナプス細胞からループ回路を経てドパミン作動性神経を興奮させている場合、もしくは(仮説2)後シナプスが逆行性シグナルによって直接近傍のドパミン作動性神経終末を活性化させている場合である。29年度においては、後シナプス細胞からの神経出力を抑制した遺伝子組換え体を作成し解析を行った。しかし、ドパミン放出はこの組換え体では顕著な変化は見られなかった。このことは仮説2の可能性が高いことを示唆している。そこで、様々な逆行性シグナルの生成阻害剤を用いた解析を行った。カンナビノイド、ギャップ結合、一酸化窒素、一酸化炭素等を検討したところ、一酸化炭素生成阻害剤存在下において後シナプス誘導性のドパミン放出が抑制されることを見出した。このことをさらに確認するため、一酸化炭素合成酵素の発現を後シナプスにおいて抑制した遺伝子組換え体を作成した。このハエ脳におけるドパミン放出を観察したところ、やはり後シナプス誘導性放出が障害されていた。今後は、この逆行性シグナルによるドパミン放出を確認するために種々の実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、後シナプス誘導性のドパミン放出機構の分子基盤を明らかにすることが主な目標であった。その結果、3つの大きな進展があった。1つは後シナプスから前シナプスであるドパミン神経への伝達は通常の神経-シナプス伝達に拠らないということを見出した。もう1つは、薬理学的な解析から、逆行性シグナルやギャップ結合の中から、一酸化炭素が重要な因子であることを見出した。最後に、この一酸化炭素は後シナプス細胞で作られることがドパミン放出に必要であることを見出した。 以上の結果から、本研究の進捗はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、見出された一酸化炭素の効果を確認するための実験を予定している。すなわち、(1)一酸化炭素の直接投与によるドパミン放出の観察、(2)一酸化炭素がドパミン放出時にハエ脳で生成されているかを可視化する、(3)一酸化炭素に対するスカベンジャーを用いてドパミン放出が妨げられるか否かを解析する。(1)に関しては2つの実験を計画している。すなわち、一酸化炭素を培養液中に注入し、これを脳に投与する。もう1つは、一酸化炭素を生成する薬剤(CORM-3等)を培養液に加え、これがドパミン放出を誘導するか否かを検討する。(2)近年、一酸化炭素の蛍光プローブが開発された(Michel et al., 2012)。これをハエ脳に投与し、後シナプス細胞誘導性のドパミン放出と併せて観察する。(3)一酸化炭素のスカベンジャーも近年開発されている(Kitagishi et al., 2010)。これをハエ脳に投与し、ドパミン放出が障害されるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)シグナル分子の検索が計画よりも順調に進んだため、当初計画していた消耗品等の経費を削減することができたため。 (使用計画) 繰り越し分は、研究計画を前倒しに進めることにより、必要な消耗品等の経費として使用する。
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