研究課題/領域番号 |
17K07129
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三好 一郎 東北大学, 医学系研究科, 教授 (10183972)
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研究分担者 |
北村 浩 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (80312403)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実験動物学 / 卵巣癌モデルマウス / 遺伝子組換えマウス / ゲノム編集 / がん化の分子機構 / 卵管特異的糖タンパク質(OGP) |
研究実績の概要 |
上皮性卵巣癌は最も死亡率の高い婦人科悪性腫瘍であるが,その発生母地が不明なこと,病態の解析に相応しい動物モデルがないことが診断・治療法の開発の障害であった。近年,上皮性卵巣癌の発生母地が卵巣上皮から卵管上皮(内癌)へパラダイムシフトしつつあり,申請者が樹立した雌性生殖器で腫瘍を形成するトランスジェニックマウスが有用なモデルとして評価されている。しかし,同マウスは,子宮・膣も腫瘍化するため人道的エンドポイントまでの卵巣癌発症率が低い(56%)。本研究では,卵管上皮細胞特異的に発癌・可視化する新規遺伝子組換えマウスを作製し,卵巣癌のがん化初期の分子機構を明らかにすると共に,診断・治療の標的分子やマーカーの探索研究に応用する。 今年度は,以下の項目について研究を実施した。 1)mOGPTag-IRES-EGFPトランスジェニックマウスの作製:実績があるmOGP遺伝子の発現制御領域の長さを変え,その下流にTagおよびEGFPをIRESを介してバイシストロニックに発現する遺伝子を作製・導入し,特異的に卵管上皮細胞に発現し,腫瘍化・可視化する遺伝子組換えマウス系統を樹立する。発現制御領域を調整することにより,卵管上皮での発現特異性の向上とともに,発現量の異なる系統の確立を試みた。 2)我々が作製したmOGPTagマウスは,エストロゲン依存的に雌性生殖器で腫瘍を発生する一方,オスの甲状腺や前立腺等も腫瘍化することから,mOGPが卵管以外の組織での発現が示唆された。野生型マウスを用いて,改めてmOGP遺伝子発現の組織特異性及びエストロゲン依存性を検証した。 3)mOGP:Tag-IRES-EGFPノックインマウスの作製:CRIPR/Cas9システムを用いて,mOGP遺伝子内にTag-IRES-EGFPをノックインしたゲノム編集マウスの作出を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
mOGPTag-IRES-EGFPトランスジェニックマウス並びにmOGP:Tag-IRES-EGFPノックインマウスの作製に関して,以下に示す理由から各々の系統の樹立やその病理学的解析が遅れている。①mOGPTag-IRES-EGFPトランスジェニックマウスの作製:導入遺伝子の構築の際,幾つかの段階で塩基配列の確認を省略したことから遺伝子自身に問題が発覚し,再度導入遺伝子の構築から開始した。②これまでのところ,報告されている条件ではノックインを目的としたゲノム編集が達成されていない。 そこで,今年度は,遺伝子組換えマウスの作製を中断し,発現制御領域遺伝子の機能を検討する比較対照として,改めて内在性mOGP遺伝子発現の組織特異性およびホルモン依存性を検討した。卵巣を切除した4週齢のC57BL/6Crメスの皮下に挿入した浸透圧ミニポンプ(Alzet)を用いてエストロゲンを12時間あるいは1週間, 2週間継続的に投与した後, 各臓器におけるmOGP遺伝子発現をreal-time PCRにより解析した。従前の報告通り,mOGP遺伝子は卵管で極めて強く発現していたが,他の臓器ではほとんど検出されなかった。また,0.1あるいは1.0, 10, 100μg/kg/dayのエストロゲンを投与したが, 驚いたことに高濃度投与群では顕著な子宮肥大が確認されたものの, mOGP遺伝子の発現は濃度あるいは投与期間の相異による影響を受けなかった。そもそもmOGPは,そもそも転写レベルでの発現が著しく高く,また,微量のエストロゲンに瞬時に反応するのかもしれない。この結果は,これまでの発現制御領域遺伝子の構造, あるいはmOGPTagマウスを用いた研究結果と一致せず,導入遺伝子の構造を吟味する必要があることを示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成30年度に引き続き,mOGPTag-IRES-EGFPトランスジェニックマウスおよびmOGP:Tag-IRES-EGFPノックインマウスの作製を行い,系統化する。しかしながら,今年度実施したmOGP遺伝子発現の解析結果に申請者の過去の報告と矛盾が見られることから,さらに詳細な解析を展開するとともに,内在性mOGP遺伝子発現制御領域の機能を利用するmOGP:Tag-IRES-EGFPノックインマウスの作製を優先する。また,病理学的組織解析により,多様な上皮性卵巣癌が検出され,形態学的に女性生殖管組織に類似するか比較検討する。即ち,上皮性卵巣癌を発症する傾向にあるヒトの卵管に見られる,浸潤性漿液性腺癌だけでなく非浸潤性の前駆病変(漿液性卵管上皮内癌)が観察されるか調べる。さらに,増殖性を示す病変部でヒトの卵管上皮癌に酷似するような,核異型あるいは上皮の重層化が認められるか検索する。一方,既存のmOGPTag Tgマウスに見られた腸骨リンパ節や甲状腺の腫瘍が検出されるか,その場合は原発性か,あるいは卵管・卵巣上皮癌由来の転移か検討する。同様に,オス個体の病理組織学的解析も実施する。 2)卵管あるいは卵巣の移植実験による上皮性卵巣癌の発生母地の解析:EGFPやTagの発現により,細胞の由来を明確に識別して以下の切除・移植実験等を実施する。 ①新規モデルマウスの卵管の切除・摘出により,上皮性卵巣癌の発症が抑制される。②新規モデルマウスの卵巣嚢内の卵巣を切除・摘出し,同系野生型マウスの卵巣を移植することにより上皮性卵巣癌が生じる。③新規モデルマウスの卵管を野生型の同系マウスの卵巣嚢内に移植することにより上皮性卵巣癌が発症する。④移植実験の際に,腸骨リンパ節や甲状腺の腫瘍が検出されるか,その場合は原発性か,あるいは卵管・卵巣上皮癌由来か検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に計画した,mOGPTag-IRES-EGFPトランスジェニックマウス,およびmOGP:Tag-IRES-EGFPノックインマウス系統樹立の進捗が遅れ平成31年度に継続することから,当初の見込み額と執行額が異なり次年度使用額が生じた。次年度使用額は,平成31年度の助成金と併せて当該遺伝子組換えマウスの作製および系統化に係る物品費として使用し,さらに当初の予定通り進めていく計画である。
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