哺乳動物の生殖細胞の発生過程において、ヒストンのエピジェネティックな修飾が著しく変動することが知られている。我々はヒストンH3K4/H3K36の脱メチル化 酵素であるFbxl11の精子形成における機能を明らかにすることを目的として、生殖細胞特異的Fbxl11ノックアウト(Fbxl11 cKO)マウスを作成しその解析を行っ た。その結果、Fbxl11 cKOマウスの精巣上体には精子形成がほとんど存在せず、精子形成に重篤な異常が生じていることが明らかになった。さらに、免疫組織化学的な解析の結果、Fbxl11cKOマウスでは、精原細胞の自己複製には大きな影響は見られない一方で、初期分化が正常に進行せず分化型の精原細胞の出現が著しく抑制されることが明らかになった。次に、Fbxl11 cKOマウスの精原細胞の遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に解析した結果、精原細胞の分化に重要な役割を果たすことが知られているmTORCのシグナルを抑制する遺伝子の発現が有意に亢進していた。そこで、Fbxl11cKOマウスの精原細胞におけるmTORの機能に着目して解析を行ったところ、Fbxl11 cKO精原細胞ではmTORC活性の低下が起こっていることが明らかになった。以上の結果から、Fbxl11はmTORシグナルを介して精原細胞の分化を調節するという新規のモデルが提唱された。
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