研究課題/領域番号 |
17K07133
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平手 良和 東京医科歯科大学, 統合研究機構, 講師 (70342839)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マウス / 着床 / ジフテリア毒素 / 細胞置換 |
研究実績の概要 |
胚盤胞の子宮への着床は哺乳類発生を特徴づけるイベントであり、胚盤胞と子宮との間でコミュニケーションを交わしながら進行していく。受精した日を妊娠1日目とすると、妊娠4日目に子宮は受容期に入り胚盤胞の受入れ態勢に入る。着床はこの妊娠4日目の“着床ウィンドウ”が開いているときにのみ成立する。着床ウィンドウの制御には多数の遺伝子が関与しているもののその全容解明には至っていない。解明が進まない理由の一つは、子宮特異的な遺伝子ノックアウトの解析が十分に行われていないことにある。子宮特異的に遺伝子をノックアウトする方法として、一般的には子宮特異的にCre組換え酵素を発現するマウスと解析対象遺伝子のfloxマウスの交配(Cre-loxPシステム)が行われるが、floxマウスは作製が容易でないため着床関連遺伝子でflox系統が利用できるのはごく一部に限られる。それを補う方法として、本研究ではTRECK法による子宮上皮の置換系の確立を目指している。TRECK法はジフテリア毒素の投与により霊長類のジフテリア毒素受容体を発現する細胞のみを死滅させる方法である。例えば、Cre-loxPシステムで子宮内膜上皮特異的にジフテリア毒素受容体を発現させておくと、ジフテリア毒素の投与により子宮内膜上皮細胞を特異的に死滅させることができる。このとき同時に着床関連遺伝子の変異体由来の子宮内膜上皮細胞を移植すると、子宮内膜上皮特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作製することができる。H29年度は子宮上皮特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウスを作製し、ジフテリア毒素投与の条件決定までを行った。また、子宮から内膜上皮細胞のみを採取する方法についても確立することができた。これらの成果はTRECK法による子宮内膜上皮置換系の技術的基盤をなすものであり、その確立に向けて一歩前進したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度はTRECK法による子宮内膜上皮特異的な細胞置換の確立を計画していたが、計画通りLactoferrin-iCre (Ltf-iCre) マウスとCre存在下でジフテリア毒素受容体を発現するRosa-iDTRマウスを交配することで子宮上皮特異的な細胞死を誘導することができた。細胞移植による上皮置換までは実施できなかったが移植に用いる上皮細胞の調製方法は確立しており、子宮管腔への移植は技術的には子宮内への胚盤胞の移植と同様なため技術的な困難はない。したがっておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度はおおむね順調に進展したため、H30年度も当初の研究計画通り実施する予定であり、TRECK法による子宮内膜上皮置換の確立を目指す。具体的には、レシピエントのマウスとして子宮内膜上皮特異的にジフテリア毒素受容体および赤色蛍光タンパク質(tdTomato)を発現するマウスを用い、このマウスにジフテリア毒素を投与して赤色蛍光を発する上皮細胞を死滅させ、それと同時にGFPを発現するマウスから調製した子宮内膜上皮細胞を移植する。細胞置換の成功は上皮の色が赤から緑に変わることで判定できる。またこの上皮置換系を応用することで野生型マウスと着床不全を示すSox17ヘテロ変異マウスとの間で相互に上皮置換を行うことを試みる。野生型マウスをレシピエント側とし、その子宮内膜上皮をSox17ヘテロ変異に置き換えることで着床不全となるか、あるいは逆にSox17ヘテロ変異マウスをレシピエント側とし、その子宮内膜上皮を野生型に置き換えることで着床不全の表現型をレスキューできるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)Cre発現マウスとして所有するLtf-iCreマウスを使用し、期待する成果を得ることができない場合は他の系統のCreマウスを導入する必要があったが、Ltf-iCreマウスで期待通りの成果が得られたのでその必要がなくなり、マウス導入に要する金額が残った。
(使用計画)研究が順調に進んでいるため、マウスの飼育ケージ数が当初予定を上回っている。助成金の繰越分はその飼育費用に充てる。
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