研究課題/領域番号 |
17K07133
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平手 良和 東京医科歯科大学, 統合研究機構, 講師 (70342839)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 子宮内膜上皮細胞 / TRECK法 / 細胞移植 / 幹細胞 / マウス / 脱細胞化組織 / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
女性側の不妊要因のひとつに着床不全が挙げられるが、そのメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究課題では、着床研究を推進するための新規ツールとして、1) Toxin Receptor Cell-Knockout (TRECK) 法と細胞移植による子宮内膜上皮in vivo再生システムの確立、および、2) 脱細胞化組織を用いたin vitro上皮再生システムの確立を目指している。1) TRECK法とは、マウスの標的細胞に霊長類ジフテリア毒素受容体 (DTR) を発現させ、ジフテリア毒素(以下、単に毒素と表記)の投与によって標的細胞のみを除去する方法である。本法を用いて、子宮内膜上皮細胞を特異的に除去した後、他系統の個体から採取した子宮内膜上皮細胞を移植することで性質的に異なる上皮細胞に置換することができる。2年目の本年度は、1年目に作製したLactoferrin (Ltf) -iCre;R26-iDTRマウスを用いて子宮内膜上皮特異的にDTRを発現させ、毒素投与後の組織学的変化および移植による上皮再生の予備的実験を行った。子宮内膜上皮は毒素投与後24時間までに細胞死が誘導され、上皮細胞の接着性の消失により上皮構造が崩壊し、球形に変化した上皮細胞は子宮管腔内へと脱落した。そして、毒素投与後30時間までには管腔上皮、子宮腺上皮とも消失した。一方で、毒素投与7日後までには上皮の再生が予期せず観察された。この上皮細胞は一度脱落したものの細胞死を免れた細胞に由来していた。毒素投与後、生存細胞による再生が始まる前に他マウス個体の子宮内膜上皮細胞を移植したところ、部分的にではあるが、移植細胞の生着を確認することができた。2) 脱細胞化組織を用いたin vitro上皮再生システムについても上皮細胞の培養に部分的に成功しており、研究は順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度までに1) TRECK法と細胞移植によるin vivo上皮再生システム子宮内膜上皮特異的な細胞置換の確立を計画していたが、計画通りLactoferrin-iCre (Ltf-iCre) マウスとCre存在下でジフテリア毒素受容体を発現するRosa-iDTRマウスを交配することで子宮上皮特異的な細胞死を誘導し、細胞移植による上皮置換を行うことができた。しかしながら毒素投与により脱落した上皮細胞の一部が予期せず生存し続けたため、上皮の置換は部分的なものにとどまった。2) 脱細胞化組織を用いたin vitroにおける上皮再生についてはまだ上皮シートを作れるところまでは至っていないが、培養は成功しており、引き続き培養条件の最適化を進める。3) 培養管腔上皮細胞の CRISPR/Cas9 による遺伝子破壊法開発については最終年度に実施する。以上のとおり、予定していた研究計画についておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、1) TRECK法と細胞移植によるin vivo上皮再生システムにおいて、移植由来の細胞比率を上げることを目指す。本年度の研究結果より、毒素投与後に脱落した細胞の一部が細胞死を免れて上皮シートを再生することが明らかとなった。このため移植由来の細胞に完全に置換された上皮を再生することができなかったが、毒素投与を繰り返すことで毒素受容体を発現する細胞の比率を下げ、移植由来の細胞比率を上げることができると考えている。また、現在のところ、移植由来の細胞の生着は子宮管腔に面した管腔上皮に限られており、子宮腺を構成している腺上皮を置換することはできていない。移植細胞は管腔内に注入するが、子宮腺の管腔への開口部は非常に径が小さいため、管腔からの注入では子宮腺に到達できなかったためではないかと考えている。また、子宮内膜上皮の幹細胞は上皮以外の場所に位置しているともいわれておりまだ不明な点が多い。上皮以外の場所に幹細胞がある場合、一度上皮を完全に置換できたとしても、引き続き継続的に毒素投与を行わないと再びレシピエント自身の細胞で上皮が再置換されてしまうことが考えられる。この問題を根本的に解決するには幹細胞を移植するしかない。そこで、骨髄に存在する造血幹細胞が子宮内膜細胞に分化するという複数の報告に着目し、TRECK法と骨髄移植を組み合わせることで子宮内膜上皮の置換が可能であるか試みる予定である。2) 脱細胞化組織を用いたin vitroでの上皮再生システム、3) 培養管腔上皮細胞の CRISPR/Cas9 による遺伝子破壊については研究を遂行する上での大きな問題点はないので、計画通り実施する。
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