着床は胚と子宮内膜上皮との間でシグナルのコミュニケーションを取りながら進んでいく。本研究課題では、着床シグナルの解析ツールとして1)TRECK法による細胞死誘導と細胞移植の組み合せによる子宮内膜上皮in vivo再生システムの確立、および、2)in vivoでの子宮上皮外来遺伝子発現系の確立を目指した。 1)昨年度までに、子宮内膜上皮特異的に毒素受容体を発現するLactoferrin (Ltf) -iCre;R26-iDTRマウスを用いたジフテリア毒素投与による細胞死誘導(TRECK法)と、別個体由来の内膜上皮細胞移植の組み合わせによる細胞置換に部分的に成功していた。本年度は、置換率の向上を目指して、新たに2つの方法を試みた。1つめは、子宮全組織で毒素受容体を発現するProgesterone receptor (Pgr) -iCre;R26-iDTRを用いたTRECK法と細胞移植による細胞置換である。この方法により子宮内膜の間質部では効率よく細胞置換が起こったものの、上皮細胞の置換効率は低かった。2つめの方法では、上皮細胞置換に代えて、骨髄移植による細胞置換を試みた。これは、子宮内膜上皮は骨髄細胞由来であるという仮説に基づくもので、実際、Pgr-iCre;R26-iDTRマウスでの骨髄移植とTRECK法による細胞置換では間質部で効率よく置換が起こったものの、上皮での置換は見られなかった。 2)当初予定では上皮をin vitro培養して遺伝子導入を行い子宮内に移植する予定だったが、前述の通り細胞置換効率が良くないため、子宮内膜上皮でのin vivoエレクトロポレーションによる直接遺伝子導入を行うことに方針転換し、これに成功した。課題として、遺伝子発現が起こらなかった上皮細胞の除去が挙げられるが、着床時のシグナルコミュニケーション解析ツールの開発に道筋を付けることができた。
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