マウス9番染色体には強力なマラリア抵抗性遺伝子座Char1/Pymrが存在しているが、その原因遺伝子は同定されていない。代表者は、マウスのマラリア抵抗性系統群ではRnf123遺伝子の発現が共通して低下している事から、本遺伝子を有力な候補遺伝子と考え、ゲノム編集技術でマラリア感受性のNC系統のRnf123遺伝子を欠失(KO)させたマウス作製し、マラリア感染感受性を解析した。このKOマウスでは僅かな原虫の増殖抑制と生存率の上昇が認められたが、その効果はChar1/Pymr遺伝子座の効果と比較して極めて小さく、この領域に他のマラリア抵抗性遺伝子が存在すると考えられた。そこで、別の候補遺伝子を探索し、Rnf123遺伝子に隣接し、遺伝子産物が赤血球内に存在しているApeh遺伝子に着目するに至った。特に、このApeh遺伝子のエクソン3に存在するアミノ酸置換部位(p.89P>R)は、マウスのマラリア抵抗性系統と感受性系統で明確に分離しており、この変異がマラリア抵抗性に関与している可能性が考えられた。そこで、ゲノム編集技術によりマラリア感受性であるNC系統のApeh遺伝子の当該部位を抵抗性系統型に置換したKIマウスを作出し、マラリア感染感受性を解析した。KIマウスではNC系統と比較して顕著なマラリア原虫の増殖抑制と生存率の劇的な改善が認められ、Apeh遺伝子のアミノ酸置換(p.89P>R)がChar1/Pymr遺伝子座のマラリア抵抗性遺伝子の本体であることが判明した。したがって、Apeh遺伝子がコードするアシルペプチド加水分解酵素は、マラリア原虫の赤血球内での増殖に何らかの重要な役割を持っていると考えられた。今回の新規マラリア抵抗性遺伝子の発見は、未知のマラリア原虫増殖抑制機構が存在することを示しており、この遺伝子のマラリア抵抗性機構の解明はマラリアの新規治療薬の開発に繋がると期待される。
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