急速な超高齢化社会を迎え、加齢に伴う更年期障害の一つとして気分障害が注目を集めている。女性では閉経に伴うエストロゲンの急激な低下により、抑うつ、不安やうつ病のリスクが増加する。また、代表的な男性更年期障害としてうつ病が広く認知されつつある。このように、気分障害は更年期疾患に特徴的な症状であり、性ステロイドホルモンの関与が予想される。そこで、性ホルモン依存性気分障害発症の分子メカニズムを把握するため、性ホルモン作用を完全に遮断したトリプル性ホルモン欠損(TKO)マウスを作出し、昨年度はTKO雄マウスの気分障害の発症に、前脳領域におけるセロトニン1A受容体とDEAF1の発現低下が寄与することを明らかにした。本年度は第一に、上流の転写因子として同定したDEAF1遺伝子欠損マウスを作出した。その結果、全身性のDEAF1欠損マウスは出生後に致死に至ること、この要因として神経管の形成異常が起因していることが明らかとなった。 次にTKO雄マウスにおける気分様障害発症の分子基盤を探るため、脳サンプルを用いたトランスクリプトーム解析を再度試行したところ、TKOマウスで発現低下を示す上位の遺伝子群にY染色体遺伝子群であるDby、Eif2s3y、Uty、Smcyが確認された。また、 Y染色体遺伝子群のカウンターパートナーであるX染色体遺伝子群(Dbx、Eif2s3x、Utx、Smcx)の発現低下も確認された。一方、X染色体不活性化に必要なnon-coding遺伝子であるXistの発現が4領域すべてで100倍以上上昇しており、Xist遺伝子座から発現するアンチセンスRNAであるTsixの発現低下も観察された。さらに、TagMan アレイを用いてmiRNA発現解析を実施したところ、22種のmiRNAがTKOマウスで特異的に変動することが明らかとなった。この変動が確認された22種のmiRNAの内、TKOマウスにて約100倍の発現低下を示したmiR-23aの標的としてXistが候補となることが確認された。
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