研究課題/領域番号 |
17K07144
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
古瀬 民生 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 開発研究員 (60392106)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | DOHaD / One carbon metabolism / S-adenosyl methionine / マウス |
研究実績の概要 |
本研究においては、栄養輸送や栄養代謝、特にメチル基質の供与に強くかかわるOne Carbon Metabolism(OCM)に関与する遺伝子のノックアウトマウスを母体として用い、これに野生型、もしくは精神疾患関連遺伝子の変異体の受精卵を移植して仔を得て、同様の野生型の母体から作出された仔との間で表現型および遺伝子発現、ゲノムメチル化の比較を行い、精神疾患における母体遺伝子変異によって生ずる胎児期低栄養と仔の異常表現型との関連を明らかにする。これまで我々は、OCMの主要遺伝子の一つであるMat2a遺伝子の変異マウスを用いたモデルの作出をおこなっている。Mat2a遺伝子の産物であるMAT2Aタンパクはメチオニンを代謝してSアデノシルメチオニン(SAM)を生成する酵素である。SAMはDNAやヒストンのメチル化の際のメチル基の供与体として知られている。 まず我々は、Mat2a遺伝子のヘテロノックアウトマウスを仮親とし、体外受精により得られた野生型C57BL/6由来の受精卵を移植して仔獣を得た。この仔獣に関して網羅的行動表現型解析を行ったところ、Mat2a遺伝子のヘテロ接合体を仮親とした野生型の仔獣において移動活動量の有意な増大などの行動表現型の変化とともに、脳における遺伝子発現の変化が見受けられた。これらのことから、母体におけるOCM 関連遺伝子の変異は次世代の行動表現型に影響を与えることが明らかになった。さらに我々は、Mat2a変異体の血中におけるSAMの濃度測定を行った。その結果、雌のヘテロ変異体においてはSAMの濃度が有意に減少していた。このため、Mat2a変異体を親に持つ野生型マウスの表現型異常が母体のSAM濃度の低下によることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mat2a遺伝子のヘテロノックアウトマウスを母親にした実験で仔の行動表現型が変化することをすでに確認している。この表現型の変化が、母親のMat2a変異によるSAMの減少によるものなのか明らかにするため、雌個体の血漿中のSAMを質量分析により測定し、実際に濃度低下を確認している。SAMはゲノムメチル化におけるメチル基供与体として知られているが、計画当初はELISA等の免疫法による安定的なデータの取得に時間を要すると考えていた。しかし、質量分析によるSAMの精密な定量が可能になったため、研究の振興が早まった。また、現在は仔の複数の脳領域のサンプリングを完了し、遺伝子発現量の定量も行い、現在はデータの解析を行っている。このため、今後は表現型上に関わる遺伝子発現量の変化を近い将来明らかにできることが期待される。以上より、本研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
行動表現型に変化の見られた仔獣に関しては、脳のどのような機能変化により表現型異常が起こるのかを特定するため、内在性の神経細胞マーカーである、PSA-NCAM、Calretinin、Calbindinなどのタンパクを免疫染色するとともに、BrdUなどの増殖細胞マーカーを用いた新生ニューロンの染色を行う予定である。このため、母獣をMat2a変異体とした野生型マウスの生産を体外受精により行う。その際は、別の個体の脳領域を海馬、線条体、前頭前皮質等の脳領域ごとに分割して採材し、ゲノムメチル化の際を検討する。 上記の解析において重要と考えられる遺伝子に関して、再度RT-PCR、バイサルファイトシークエンス法による発現とメチル化の変化についての確認を行い、当該遺伝子の既存のノックアウトマウス、もしくは新たにノックアウトマウスを作出する。既存の変異体の導入は理研バイオリソースセンターもしくは、Knockout mouse project (KOMP) (https://www.komp.org/)などの国際コンソーシアムより導入するか、現在急速に着目されつつあるCRISPRといったゲノム編集技術を用いて迅速に作出する。また、作出された変異体に関してはまず、理研マウスクリニック(http://www.brc.riken.jp/lab/jmc/mouse_clinic/)において網羅的表現型解析を行い、遺伝子の機能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
メチオニン代謝物の測定のため、HPLC関連の消耗品と試薬を購入し、独自に実験を行う予定であった。しかし、研究機関内の連携により質量分析技術を用いて複数の物質を安価で効率よく測定することができた。このため、上記の物品の購入の外に、実験条件の検討に使用するマウスの生産と飼育にかかる費用に余剰が生じた。当該年度において予想外に研究が進展したため翌年度においては、余剰金をDNAのメチル化解析、発現解析の消耗品購入に充てるとともに、発現やメチル化に異常の生じた遺伝子の変異マウスの作出、成果報告の旅費に充当する予定である。
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