希少疾患研究から新たな分子創薬標的が発見され、新薬開発への手がかりを提供することがいくつかの疾患で示されている。本研究は、希少疾患であるシスチノーシス(シスチン症)モデルマウスを用いて、マウス系統差を利用した連鎖解析により、新たなシスチン代謝関連遺伝子座を同定し、新たな分子創薬標的遺伝子を同定することを目的とした。 これまでの解析で、シスチノーシスの原因遺伝子であるCtns遺伝子をC57BL/6マウスに導入すると、FVBマウスに導入した場合に比べ、肝臓、眼球、脾臓および腎臓において顕著にシスチンが蓄積することを明らかにした。交配実験により、原因遺伝子は劣性遺伝様式が示唆されたため、C57BL/6およびFVB背景のCtns遺伝子欠損マウスを交配し、105匹のバッククロス個体を作製した。質量分析装置を用いて全個体の各組織におけるシスチン量を測定し、さらに全染色体を網羅する102個のマイクロサテライトマーカーを用いて各個体の遺伝子型を決定した。肝臓におけるシスチン蓄積量と遺伝子型の相関解析をカイ二乗検定で行った結果、マウス第12染色体上のマーカーに有意な相関(P = 3.4E-8)があることがわかった。約35Mbの候補領域には117個の遺伝子が存在するが、タンパク質コード領域上にアミノ酸置換を伴う変異を有する遺伝子は存在しなかった。しかしながら、C57BL/6の芳香族炭化水素受容体(AhR)遺伝子は、“G”から“A”の置換により、AhR遺伝子の途中で新たなストップコドンが生じ、タンパク質のC末端が一部欠損していることが予想された。また、Ctns遺伝子欠損細胞を用いたメタボローム解析により、Ctns遺伝子を欠損すると細胞内のグルタチオン(GSH)量が有意に減少し、細胞の抗酸化作用が低下することが示唆された。
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