研究課題/領域番号 |
17K07150
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
芳賀 永 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (00292045)
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研究分担者 |
小林 純子 (仁尾純子) 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70447043)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / がん細胞 / 集団浸潤 / 接触追従 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
がん細胞の浸潤に関する研究は,これまで主に単一の細胞を対象に2次元の培養環境下で行われてきた.一方,生体内では,がん細胞は組織内を3次元的に集団で浸潤することが知られている.本研究は,がん細胞の接触追従という性質に着目し,集団浸潤の機序を解明することを目的とする. 平成30年度では,細胞-細胞間に存在する細胞外基質構成タンパク質の解析を進めた.前年度までの研究から,集団浸潤するがん細胞種の細胞-細胞間の間隙が集団浸潤しないがん細胞種に比べて有意に広く,細胞外基質である17型コラーゲンおよびラミニン332が存在することが分かったが,平成30年度ではインテグリンβ1との結合を免疫沈降法によって調べた.その結果,17型コラーゲンがラミニン332と結合することでラミニン332が安定化し,さらにそのラミニン332がインテグリンβ1の活性化を促すことでがん細胞(ヒト扁平上皮がん細胞株A431細胞)の集団浸潤が誘引されることが明らかとなった. さらに,細胞間接着構造の一つであるデスモソームと集団浸潤との関係に着目した.電子顕微鏡による観察の結果,集団運動しないがん細胞種(ヒト大腸がん細胞株T84細胞)ではデスモソームが多数存在するのに対し,集団浸潤するA431細胞ではデスモソームの数が少なく,アドヒレンスジャンクションが多数存在することが分かった. 様々ながん種の細胞株を用いて,集団浸潤の普遍性についても解析を進めた.その結果,高浸潤能を有するヒト乳腺がん細胞株(MDA-MB-231細胞)では,接触追従による集団浸潤の観察には至らなかったものの,アクチン結合タンパク質の一つであるFascin-1がLGR5の発現を亢進することで,コラーゲンゲル中の浸潤能を誘引することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度では,研究実施計画をほぼ順調に遂行することができた.接触追従による集団浸潤の機序をインテグリンβ1,17型コラーゲン,ラミニン332との関係から明らかにすることができ,これらの結果を日本細胞生物学会,日本癌学会,日本分子生物学会をはじめとする学会,シンポジウム,セミナーなどで発表するに至った.さらに,原著論文として投稿することができた(現在査読中). 集団浸潤しないがん細胞種としてこれまで大腸がん細胞株を用いてきたが,集団浸潤を示すがん細胞株(扁平上皮がん細胞)とがん種が異なるため,細胞塊としての表現型が異なるという問題あった.そこで,A431細胞のサブクローニングを実施し,同一のがん種で集団浸潤能の異なるサブクローン株を樹立し,細胞-細胞間の構造を比較する準備を進めた.現在20株程のサブクローン株を樹立することができ,平成30年度の終わりに集団浸潤能の解析に着手することができた. 集団浸潤の普遍性についても解析を進めることができた.乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞では集団浸潤を観察することができなかったが,他の乳がん細胞株,膵がん細胞株,肺がん細胞株などで予備的な実験を平成30年度内に行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
集団浸潤能の異なるA431細胞サブクローン株を用いて,細胞間接着構造の違いを調べる.とくにデスモソームの構成に着目し,プラコグロビン,デスモグレイン、デスモコリンなどの免疫染色,siRNAによる発現抑制,プラスミド導入による強制発現を行うことで,集団浸潤とデスモソームとの関係に迫る. さらに,様々ながん種の細胞株および正常細胞株を用いて,接触追従による集団浸潤の普遍性を調べる.デスモソームに着目するとともに,インテグリンβ1,17型コラーゲン,ラミニン332についても発現と機能を調べる.正常細胞株としては,イヌ腎尿細管上皮細胞(MDCK細胞)を用いる. 乳腺がん細胞株において,Fascin-1がLGR5の発現を亢進することで浸潤能を誘引することが明らかとなったので,LGR5の下流に位置するシグナル伝達経路についても解析を行い,集団浸潤する細胞株での関与を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定の実施計画で想定していた試薬などの経費を予想価格より抑えることが出来た.次年度使用額は,最終年度にあたる平成31年度において,これまでに得られた研究成果を公表するための論文掲載料,学会発表に掛かる経費に使用する.さらに,集団浸潤の普遍性を調べるために多数のがん細胞株を培養する必要があるため,次年度予算に加えてこれらの経費に使用する.
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