研究実績の概要 |
多数の細胞が集団で同じ方向に移動するためには,細胞-細胞間の接着を維持しつつ隣接する細胞の動きに同調して個々の細胞が同じ方向に運動する必要がある.本研究では,がん細胞の集団浸潤における分子機構について解析を行ってきた.その結果,集団浸潤するがん細胞株であるヒト扁平上皮がん細胞(A431細胞)では,集団浸潤しないがん細胞株(ヒト大腸がん細胞株T84細胞)に比べて細胞-細胞間の間隙が有意に広く,細胞外基質成分であるラミニン332および17型コラーゲンが充填されることで集団浸潤がもたられることが明らかとなった(Kumagai et al., BBRC, 2019).さらに,インテグリンβ1との結合を免疫沈降法によって調べたところ,ラミニン332が17型コラーゲンと結合することで安定化し,さらにそのラミニン332がインテグリンβ1の活性化を促すことでがん細胞の集団浸潤が誘引されることが明らかとなった. 最終年度では,細胞間接着構造と集団浸潤との関係について重点的に解析を進めた.電子顕微鏡による観察の結果,集団浸潤するがん細胞の表面には多数のひだ状の仮足が存在することが明らかとなった.このようなひだ状の仮足構造はこれまで遊走能の高いマクロファージでは観察されていたが,がん細胞集団の細胞間隙で観察されたのは初めてである.このひだ状の仮足構造ががん細胞に集団で浸潤するための推進力を与えている可能性がある. 異なるがん種における集団浸潤の普遍性については十分な結果を得ることができなかったが,A431細胞のサブクローニングを実施し,同一のがん種で集団浸潤能の異なるサブクローン株を樹立し,細胞-細胞間の構造を電子顕微鏡で比較することに成功した.さらに,サブクローン株のマイクロアレイを行うことで遺伝子発現の網羅的解析を行い,細胞間接着構造に違いをもたらすタンパク質発現,シグナル経路の同定を目指した.
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