研究課題/領域番号 |
17K07151
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 茂 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 寄附研究部門准教授 (50311303)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Arf6 / EZH2 / エピジェネティクス / 腎癌 / EMT |
研究実績の概要 |
本研究は、間葉形質を獲得した腎癌におけるエピジェネティック制御によるArf6を中心とした癌浸潤・転移に特化した分子装置の創出と活性化、及び、代謝リプログラムにおける細胞内活性酸素種の量的制御の分子機序とArf6経路との関連を検討し、その分子機序の解明を目的とする。 本研究期間において、EZH2及びArf6経路構成分子群の遺伝子発現が亢進し、高転移性及び薬剤抵抗性を示す細胞として786-O、それらの遺伝子の発現が低く転移性及び薬剤抵抗性が低い細胞としてA704を用いたRNA-seq.解析を行いEZH2発現促進転写因子及び抑制転写因子候補を挙げ、EZH2遺伝子プロモーター上にある当該候補転写因子の結合する可能性があるか否かを解析ソフトJASPAR及びMEMEを用いた査定を行った後、腎癌のTCGA database解析によりEZH2発現と正あるいは負の相関が見られるものを絞り込みいくつかの転写因子候補を同定した。同様に、EZH2によるeIF4A1~3遺伝子群の発現誘導を介したArf6の翻訳活性化、mTOR及びRaptorの発現誘導を介したAMAP1の翻訳活性化に関わる候補転写因子群を同定している。また、EPB41L5ついてはEZH2によるZEB1の発現誘導に関わるいくつかの転写因子候補を見出している。 細胞の酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を検討することにより、Arf6, AMAP1, EPB41L5の発現を抑制することにより解糖系が低下することを観察した。癌悪性度進展と関連したEMTにおいてミトコンドリアの形態が分裂タイプに変化することを見出した。例えば、T細胞ではその活性化に伴いATP産生をミトコンドリア呼吸から解糖系へと変換し、ミトコンドリアの形態が分裂タイプに変化することが報告されていること等から(Buck et al. Cell, 2016)、癌の間葉形質獲得に伴うミトコンドリアの形態変化を介した代謝リプログラムにArf6経路が関与することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
786-O細胞におけるEZH2の発現制御、EZH2によるArf6、AMAP1、EPB41L5の発現誘導に関わる分子群のスクリーニングを行い、複数の候補制御分子を同定したこと、酸素消費速度及び細胞外酸性化速度を検討において、Arf6, AMAP1, EPB41L5の発現を抑制することにより解糖系が低下すること、癌悪性度進展と関連したEMTにおいてミトコンドリアの形態が分裂タイプに変化することを見出しことは、当初の計画通りである。一方、Arf6経路による細胞内ROS量抑制に関連したマイトファジーによるミトコンドリアの除去の可能性とミトコンドリア内膜におけるROS産生抑制に関わる分子群の局在や機能制御に関する検討については現在解析中である。従って、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Arf6経路による細胞内ROS量抑制に関するマイトファジーによるミトコンドリアの除去の可能性とミトコンドリア内膜におけるROS産生抑制に関わる分子群の局在や機能制御についての検討を完結させると共に、平成29年度に同定したEZH2の発現制御、EZH2によるArf6、AMAP1、EPB41L5の発現誘導に関わる候補制御分子群のin vivoにおける機能解析を進める。具体的には、当該候補分子群の発現を抑制した786-O細胞をヌードマウスに異種移植することによる腫瘍形成能、SunitinibあるいはTemsirolimusなどの抗癌剤耐性、及び、肺転移性に与える影響について検討を進める。
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