研究課題
本研究期間において、昨年度に同定した間葉形質を獲得した腎明細胞癌におけるEZH2の発現制御、EZH2によるArf6、AMAP1、EPB41L5の発現誘導に関わる候補制御分子群の絞り込みを進めた。EZH2の発現について高転移性及び薬剤抵抗性を示す細胞、786-O、それらの遺伝子の発現が低く転 移性及び薬剤抵抗性が低い細胞、A704の遺伝子発現の比較から複数種類の候補転写因子について検討を行い、候補因子の1つを786-O細胞において抑制することによりEZH2のmRNA発現が減弱し、浸潤性転移性が抑制されること、また、A704で恒常的活性化型の当該候補転写因子を発現させることでEZH2の発現が亢進することを見出した。EZH2によるArf6の翻訳段階での遺伝子発現誘導に関わる候補制御分子群として、前者についてはeIF4Aの阻害分子として知られるPDCD4の発現抑制を介した活性化の分子機序を見出した。この現象は、腎癌だけでなく膵癌細胞モデルにおいても再現された。AMAP1については、いくつかの候補分子の中でmTOR経路の活性抑制に関わるAMPKの抑制を介した分子機序を見出している。EPB41L5について、EZH2による癌抑制遺伝子TP53の抑制がZEB1の活性化につながることを示唆する実験結果を得ている。TGFβ刺激により誘導される上皮-間充織形質転換においてミトコンドリアの形態が分裂タイプに変化することを見出した。このことは、間葉形質獲得に伴いATP産生をTCA回路から解糖系へと変換したことが示唆される。また、腎明細胞癌においてEZH2がミトコンドリアの分裂に関わるDNM1Lなどの分子の発現亢進に関与することも見出している。腎癌の間葉形質獲得に伴うミトコンドリアの形態変化を介した細胞内活性酸素種の量的制御にArf6経路が関与することが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
腎明細胞癌におけるEZH2の発現制御、EZH2によるArf6、AMAP1、EPB41L5の発現誘導の分子機序の一端を見出すことができたこと、並びに、腎癌の間葉形質獲得に伴うミトコンドリアの形態変化を介した細胞内活性酸素種の量的制御にArf6経路が関与すること示唆する知見を得たことは、当初の計画通りである。また、次年度へ向けた当該候補分子群に関する病理学的解析についての準備を進めた。さらに、Arf6経路による細胞内活性酸素種量の抑制に関連した検討について、新たに専門家との協力体制を構築し、解析を進めている。従って、おおむね順調に進展していると判断した。
EZH2の発現、EZH2によるArf6、AMAP1、EPB41L5の発現誘導に関わる候補制御分子 群のin vivoにおける機能解析を進める。即ち、当該候補分子群の発現を抑制した786-O細胞をヌードマウスに異種移植することによる腫瘍形成能、 SunitinibあるいはTemsirolimusなどの抗癌剤耐性、及び、肺転移性に与える影響について検討を進める。また、候補分子に関する病理学的解析を進め生物学・医学的的意義を検討する。さらに、EZH2及びArf6経路による、間葉形質獲得に伴う細胞内活性酸素種の量的制御の分子機序について、オートファジー/マイトファジーによるミトコンドリアの品質管理への関与の可能性及びミトコンドリア内膜における活性酸素種産生抑制に関わる分子群の局在や機能制御の可能性についての検討を進める。
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