本研究は、1)p53ファミリー遺伝子の幹細胞の維持、分化機構、2)癌細胞の発生時の癌抑制遺伝子としての機能、3)幹細胞制御と癌抑制の統合制御メカニズム、4)生殖細胞保護機構の解明、および5)ファミリー遺伝子を利用した癌抑制、癌治療への応用を目指している。以下の二点で進展が見られた。 種々の乳癌細胞でp63の発現を検討したところTAp63/DeltaNp63とも発現していた。これらの細胞で、p63の強制発現実験を行ったところ、エストロゲン受容体(ER)を発現するMCF7細胞のみにおいて、増殖を抑制することが判明した。この抑制には、mir-205を介したBRCA1の抑制によるという重要な知見も得ている。さらに、luminalA/Bタイプの乳癌においてp63の発現量が高いと予後が良いことを見出した。このことは、p63がERを制御していることに起因している。このメカニズムとして、p63がmiRNAXを誘導し、そのmiRNAXがERの発現を抑制するすることを見出した。乳癌は、一見治癒したように見えても、5年以上経過してから再発転移することが知られており、そのメカニズムの解明は乳癌の治療法の改善にも寄与することが、期待されこのメカニズムの解明をもくろんでいる。 始源生殖細胞は、放射線、抗癌剤に対する感受性が体細胞に比して、異常に高いこと、これが、通常のアポトーシス誘導性遺伝子の転写誘導によるものでなく、アポトーシスを阻害している広範にわたるmiRNAの低下によるという新規現象を見出しており、このことは、放射線被ばくを受けたり、放射線治療を受ける女性、男性の生殖細胞の保持に指針を与えることが期待され、研究を進めている。
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