研究課題
我々はこれまでヒト上皮癌由来細胞株のパネルを精査して、クロマチン構造変換因子、SWI/SNF複合体の触媒サブユニット Brmの発現の有無と、MKL1やMKL2(MKL1/2)がcofactorとして機能するSRFの標的遺伝子群の有無が逆相関すること、さらにBrmがMKL1/2の機能を負に制御していることを示してきた。そこで本研究では上皮細胞においてBrm型SWI/SNF複合体がどのような分子機構を介して、SRF- MKL1/2複合体の活性化能を制御しているのかを明らかにすることを目標とする。この分子機構として、1)Brm型BAF複合体が直接SRFやMKL1/2と結合して、SRF-MKL1/2間の結合を阻害する。2)Brm型BAF複合体が核内アクチンの重合・解離の平衡を制御して、間接的にMKL1/2やその制御因子の細胞内局在性を制御する。3)Brm型BAF複合体によって転写活性化される遺伝子の産物がSRF-MKL1/2複合体に働いてその活性を阻害するといった可能性をそれぞれプロジェクトとして検討した。重要なことに、1)の検討過程でBrmの発現を欠失する細胞では、MKL1/2は細胞核内に局在するが、Brm型SWI/SNFを完備する細胞ではMKL1/2は細胞質に留まることが判明した。そこで2) で仮定していた事象が起きているのか、核内アクチンの動態を観察するために、核内アクチンに結合するプローブタンパク質を発現するベクターをいくつか作製して各種細胞株に導入して検定細胞をいくつか作製した。また同時に、3)のプロジェクトも進めて、Brmのみを発現するA549細胞に対してshBrmRNAまたは対照shRNAを導入した細胞のmRNAについてマイクロアレイ法、およびqRT-PCRスクリーニングにより両者を比較してMKL1/2-SRF活性の制御に関わる因子の探索を進めている。
2: おおむね順調に進展している
プロジェクトごとに進捗状況をまとめる。1) Brmの発現を欠失する細胞(SW13)では、MKL1/2は細胞核内に局在するが、Brm型SWI/SNFを完備する細胞 (A549)ではMKL1/2は細胞質に留まることを見出した。そこでBrmの発現を欠失する細胞4株とBrm型SWI/SNFを完備する細胞6株からなるヒト上皮癌由来細胞株のパネルを用いて、MKL1/2の細胞内局在性を評価した。その結果SW13とA549でみられた結果は、パネルすべての細胞で成立した。2) 核内アクチンに結合するプローブ として開発されているいくつかのプローブタンパク質を発現するレンチベクターをA549, HeLaS3, SW13細胞にそれぞれ導入した。その結果Lifeactに核内移行シグナルを付加したGFPを融合したタンパク質を導入した場合にのみに、十分な蛍光があったので、今後はこのLifeact融合タンパク質をレポーターとして採用する。3) Brmを発現するA549細胞に対して、その発現をshBrmで抑制した場合としなかった場合で大きくmRNAの発現量が変わる遺伝子をマイクロアレイ法、およびqRT-PCRスクリーニングにより探索を行った。SWI/SNF複合体によって正に制御されていた、KLF4, PPARGといった転写制御因子を介してMLK1/2の細胞内局在性が制御される可能性を追求したが、MLK1/2の細胞内局在性や、EGR1/2/3/4, CTGF, MYL9といったMKL1/-SRF標的遺伝子の発現に変動はみられなかった。
これまで間葉系細胞を用いて、細胞質中のMKL1/2が、細胞質中のG-actinの上昇に伴い、一過的に細胞核へ移行するというTreismanらのモデルが提出され確立しているが、上皮がん細胞におけるMKL1/2の局在はこれとは異なったおそらく複数の機構によっても制御されていることが示唆される。そこでプロジェクト1)で得られた上皮細胞で得られた貴重な成果を基盤に、その分子機構をさらに追求するためにさらにプロジェクト1)-3)をそれぞれ推進する。1)Brmの発現を欠失する細胞(SW13)にBrm を導入し、MKL1/2が細胞質内にみられるようになるか、またBrm型SWI/SNFを完備する細胞 (A549)にshBrmを導入してMKL1/2は細胞核内にもみられるようになるかを、評価してBrmの有無の重要性を検証する。2)従来の細胞質内でのG-actin とF actin の平衡動態からでは、MKL1/2の細胞内局在は説明できない。そこで昨年度作製したレポーター細胞を使ってMKL1/2に核内のG-actinが結合すると、核外移行が促進するという作業仮説が成立するかの検証を進める。うまく検証された場合、核内でのG-actin とF actin の平衡動態を決定している核内の特異因子を追求する。3)SWI/SNF依存的に正や負に制御されている遺伝子群の中に、MKL1/2の細胞内の局在性を制御する因子が存在する可能性を追求する。そこでまずImportinおよびExportin familyに属する遺伝子群のBrm依存性について、系統的に追求する。
人件費の査定に微妙な変更があり、少額の残金が発生した。大筋の使用計画に変更はない。
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Scientific Reports,
巻: 7 ページ: 11772
10.1038/s41598-017-11806-9.
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http://www.pf.chiba-u.ac.jp/research/project/iba.html