我々はこれまでヒト上皮癌由来細胞株のパネルを精査して、クロマチン構造変換因子、SWI/SNF複合体の触媒サブユニット Brmの発現の有無と、MKL1やMKL2がcofactorとして機能するSRFの標的遺伝子群の有無が逆相関すること、さらにBrmがMKL1/2の機能を負に制御していることを示してきた。そこで本研究では上皮細胞においてBrm型SWI/SNF複合体がどのような分子機構を介して、SRF- MKL1/2複合体の活性化能を制御しているのかを明らかにすることを目標とする。これまでにBrmの発現を欠失する細胞では、MKL1/2は細胞核内に局在するが、Brm型SWI/SNFを完備する細胞ではMKL1/2は細胞質に留まることが判明した。さらに、Brmのみを発現するA549細胞に対してshBrmRNAを導入した細胞を用いてマイクロアレイ法、およびqRT-PCRによるスクリーニングにより両者を比較してMKL1/2-SRF活性の制御に関わる因子の探索を進めた。 令和元年度の研究により、Importin subunit alpha-8 をコードする遺伝子 (KPNA7)がBrm依存的であることが判明した。そこで、KPNA7の発現ベクターおよびshRNAを作製し、発現ベクターをBrmの発現がないSW13細胞、shRNAをBrmの発現があるA549細胞にレンチウイルスベクターで導入して、SRF-MKL1/2標的遺伝子の変動を解析した。しかしながら、両者とも標的遺伝子の変動に影響はなかった。 最後に、転写因子SOX2についても同様にBrm依存的であることがマイクロアレイ等により判明したため、KPNA7同様の実験を行ったが、Sox2 はMKL1/2の局在を制御する因子ではなかった。これまでのところ、Brmの標的遺伝子群の中で、MKL1/2の局在を制御している因子の特定には至っていない。
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