研究課題
昨年度にひきつづき、内皮細胞における内皮間葉移行(Endothelial-to-mesenchymal transition: EndMT)という現象を司る転写因子に着目し、ヒト臍帯動脈内皮細胞(human umbilical artery endothelial cell: HUVEC)およびヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell: HUVEC)を用いて、その役割について解析を進めた。具体的には、昨年度に見出したEts family 転写因子の一つがEndMTに抑制的に働くことについて、遺伝子発現、細胞免疫染色、チャンバーマイグレーションアッセイ、液性因子のレポーターアッセイなどの手法により、詳細な解析を行った。Transforming growth factor (TGF)-βを添加することによってEndMTを誘導させた条件下で、この遺伝子の発現を低下させると、間葉系細胞マーカーの発現は顕著に上昇したので、この条件下で実際にEndMTを誘導する因子の探索を行ったところ、このEndMTに関与する可能性が考えられる液性因子の発現が上昇していた。このEndMTを起こしている細胞の培養上清を用いたレポーターアッセイでは、EndMTを亢進すると考えられる因子の産生が亢進していることが示唆された。今後、この液性因子が実際にEndMTの亢進に寄与しているかについて、この液性因子の発現や機能を低下させた場合にどのような結果が得られるか検証していく。またマウス個体レベルの解析では、この遺伝子の内皮細胞特異的な欠損マウス(TEK-Creマウス)の作製に着手し、現在までに胎生期の役割について解析を行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
細胞レベルの解析は一部解析が不十分なものもあるが、解析中の転写因子がEndMTを抑制するという機能については確定できたと考えられる。この転写因子の具体的な標的遺伝子や制御因子についてはもう少し掘り下げて解析する必要があるが、マウス個体を用いた解析は胎生期の役割について進捗があったので、細胞レベルの解析の進み具合と合わせて、概ね順調に予定していた研究が進展していると言える。
今後の具体的な研究の方策としては、今回の解析対象となっているEts family転写因子について、どのような標的遺伝子を調節してEndMTを引き起こしているのかについて、標的遺伝子を同定しクロマチン免疫沈降などの手法を用いて解析を進める予定である。また、この転写因子の活性を調節しうるシグナルについて、細胞レベルで解析を進める予定である。さらに、Ets family転写因子は同じファミリー内に似通っている遺伝子が存在することが知られていることから、それらについて、同様の機能を持っていないかについて検討する。個体レベルの解析では、内皮細胞特異的な欠損マウスを用いて成体期における解析を進める予定である。
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