研究課題/領域番号 |
17K07157
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉松 康裕 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (60586684)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | EndMT / 内皮間葉移行 / 間葉系細胞 / Ets family 転写因子 / 血管内皮細胞 / リンパ管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
内皮細胞が間葉系細胞へと分化転換する現象である,内皮間葉移行(Endothelial-to-mesenchymal transition: EndMT)を司る転写因子に着目し、ヒト臍帯動脈内皮細胞を用いて、その役割について解析を進めた。具体的には、これまでに見出したEts family 転写因子の一つがEndMTに抑制的に働くことについて、siRNAを用いたloss-of-functionの実験により,EndMTの過程で上昇する液性因子の発現はEndMTの誘導因子であるtransforming growth factor-β (TGF-β)様の作用を持つことを示唆するデータを得ることができた。 一方で,血管内皮細胞と同じ内皮細胞であるリンパ管内皮細胞でも,ヒト皮膚由来のリンパ管内皮細胞を用いた解析により,同様に内皮細胞の性質維持に働いている遺伝子があることを示唆するデータを得ることができた。詳細な解析により,この細胞でも同じようなメカニズムで液性因子の上昇が起こることを突き止めている。マウスを用いた個体レベルの解析では、この遺伝子の内皮細胞特異的な欠損マウス(TEK-Creマウス)の解析をおこなった。現在までに胎生期の役割について解析を行い,はっきりとした表現型を見出すことはできないないが,現在,成体における役割について解析を進めている。 また,がんの悪性化因子と考えられるEndMTがどのように誘導されるか、その分子機序を明らかにする過程で、線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナルがEndMTに抑制的に働くこと,このシグナルの下流経路においてEts family転写因子のElk1が重要な役割を果たすことを突き止め学術論文に報告した。これにより,がん悪性化におけるがん細胞とEndMTの相互作用の意義を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,昨年度までに見出したEts family 転写因子の一つが内皮間葉移行に抑制的に働くことについて、細胞レベルの解析を,遺伝子発現、細胞免疫染色、チャンバーマイグレーションアッセイ、液性因子のレポーターアッセイなどの手法により,さらに詳細に行うことができ,この転写因子がEndMTを抑制するという機能については確定することができたと考えられる。これと同時に,この転写因子の機能を抑制すると,EndMTが亢進するという現象のメカニズムとして,このEndMTの亢進に重要な役割を持つと考えられる液性因子の役割を示唆するデータを取得することできた。一方で,リンパ管内皮細胞でも,内皮細胞の性質維持またはEndMTの亢進に関して,類似の現象を見出しており,さらに血管内皮細胞の場合とは異なる転写因子によって制御されていることを突き止めることができた。マウス個体を用いた解析は胎生期の役割について,一部結論を導くことができたが,はっきりとした役割を見いだせていないため,成体における役割についてマウスの組織を用いてEndMTの解析を進めている。また,並行して進めていた,がんの悪性化因子としてのEndMTに関する研究において,がんの悪性化過程でEndMTがどのように誘導されるか、その分子機序を明らかにした。これにより,がん悪性化におけるがん細胞と微小環境の相互作用の意義を提示することができたのに加え,リンパ管内皮細胞における実験結果に大きな進捗があったので、全体としては、概ね順調に予定していた研究が進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の具体的な研究の方策としては、今回の解析対象となっているEts family転写因子が液性因子の遺伝子を調節していると見られるため,どのような標的遺伝子を調節してEndMTを引き起こしているのかについて、遺伝子の同定を進める予定である。 また,2019年度に進めたリンパ管内皮細胞の解析においても同様の遺伝子があると考えられるため,これについても液性因子の遺伝子について同定を進める。 個体レベルの解析では、内皮細胞特異的な欠損マウスを用いて成体期における解析をさらに進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題に関わる研究以外の業務(教育および異動など)により多忙になったことに加え、論文投稿により追加実験の実施に多くの時間を割く必要があった。また,より精緻な研究を行う方向に研究計画を変更することにした。
|