研究課題
アミノ酸輸送系の一つであるシスチン・グルタミン酸トランスポーター(xCT)は、多くのがん細胞において強く発現しており、がんの増殖や浸潤、転移能、抗がん剤耐性、また、がん幹細胞の特性維持などに深く関与することが報告されるようになってきた。このことは、xCTの機能を抑制することが、がんの増殖・浸潤・転移などを抑えるうえで重要であることを強く示唆している。しかし、xCTが有する多様な機能の何ががんの特性発現に関わるか、その分子メカニズムについては不明な点を多い。平成30年度は、平成29年度に作製したxCT遺伝子欠損メラノーマとこの細胞にxCT発現ベクターを導入し、xCTを安定発現させたaddback細胞、および野生型細胞を用いて、in vitroの実験系の精度を上げ、xCTの機能とがん細胞の浸潤や転移等の病態との関連性が明確になるようさらに検討した。その結果、メラノーマの浸潤能、遊走能、スフェロイド形成能、血管内皮細胞との接着能は、xCTを介して維持される細胞内グルタチオンが重要であることが示された。一方、細胞内グルタチオンの動態だけではこれらの細胞の浸潤能や遊走能は、十分説明することができず、xCTが新たに誘導されることが重要である可能性が示唆された。これらの研究に加え、新たに入手したヒト肉腫由来がん細胞株HT1080細胞を用いて、CRISPR/Cas9システムにより、xCT遺伝子欠損細胞を作製した。このxCT遺伝子欠損細胞と親株細胞のシスチン取り込み活性、細胞内グルタチオンの動態、xCTタンパク質の発現を調べた。また、これらの細胞の浸潤能、遊走能、スフェロイド形成能を調べ、いずれもxCT遺伝子欠損HT1080細胞で低下していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
xCT遺伝子欠損メラノーマにxCT発現ベクターを導入しxCTを安定発現させた addback細胞を3系統を加え、xCT欠損細胞、野生型細胞とともにin vitroの実験系で浸潤能、遊走能、血管内皮細胞との接着能、スフェロイド形成能などを計画通りに解析した。また、新たに入手したヒト肉芽腫由来HT1080細胞からxCT欠損細胞を樹立し、ヒトのがん細胞での研究にも着手できた。
ヒト肉腫由来がん細胞HT1080細胞のxCT遺伝子欠損細胞からヒトxCT遺伝子発現ベクターを導入してxCTを安定発現させたaddback細胞を作製する。これらの細胞を用いて、xCTがヒト由来がん細胞においても、転移の成立のいくつかの段階に関与することを明らかにする。また、xCTが機能することにより生じる細胞外環境とがん細胞の転移能との関連性をさらに検討する。これらの解析と並行して、ヒト乳がん細胞株からxCT遺伝子欠損細胞を作製し、同様の解析を行うことで、ヒト癌腫の転移においてもxCTが重要な役割を担うことを示す。さらに、本研究で阻害特性等を明らかにしてきたerastinや、他の新規xCT阻害剤と既存の抗がん剤の併用によるがん細胞の増殖能、浸潤能、遊走能へ及ぼす影響について検討する。
業者のキャンペーン等の利用により、予定していた使用額より安価な価格で必要物品等を調達できたため。次年度使用額は、翌年度分に合算して、研究遂行に必要な試薬・物品等の購入に充てる。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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