哺乳類細胞の形質膜上に発現するアミノ酸輸送系の一つであるシスチン・グルタミン酸トランスポーター(xCT)は、多くのがん細胞において強く発現していることが知られており、がんの増殖や浸潤、転移能、抗がん剤耐性、また、がん幹細胞の特性維持などに深く関与することが報告されるようになってきた。このことは、xCTの機能を抑制することが、がんの増殖・浸潤・転移などを抑えるうえで重要であることを強く示唆している。しかし、xCTが有する多様な機能の何ががんの特性発現に関わるか、その分子メカニズムについては不明な点を多い。 この点を明らかにするために、令和元年度は、前年度に引き続き、ヒト肉腫由来がん細胞株HT1080のxCT欠損株とその親株、また、xCT欠損株にxCT遺伝子を再導入したaddback細胞を用いて、in vitroの実験系で種々の解析を行った。xCTの特異的阻害剤であるエラスチンやスルファサラジン、グルタチオン合成阻害剤であるBSO、そして、xCTを介さずに細胞内にシステインを供給できる2-メルカプトエタノールを共存させた時、Boyden Camber Assay、スクラッチアッセイ、スフェロイド形成解析のためATP測定を行った。その結果、浸潤能、遊走能、スフェロイド形成能は、xCTを介して維持されるグルタチオンが重要であることが示された。これらの結果は、マウスメラノーマ細胞のin vitroの実験系で得られた結果と概ね一致することから、ヒトのがん細胞も、個体レベルでの転移にxCTが重要な役割を担うことが示唆された。
|