研究課題/領域番号 |
17K07159
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐々木 宗一郎 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (50583473)
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研究分担者 |
向田 直史 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (30182067)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Bone metastasis |
研究実績の概要 |
Triple-negative (TN) 乳がん患者において高頻度で合併する、骨を含む種々の臓器への転移は、患者の生命予後に大きく影響する。骨転移過程では活性化する破骨細胞を標的とした薬剤が骨転移に対して汎用されているが、対症的であり、骨転移の分子・細胞基盤の解明に基づいた新たな治療法の開発が求められている。 研究代表者は、マウス乳がん細胞株4T1から、乳房脂肪組織移植によって骨への自然転移を高率に起こす4T1.3クローンを樹立し、骨転移過程の解析を行った。その結果、がん細胞が骨髄内への線維芽細胞の集積を促し、がん細胞の増殖に有利な微小環境を骨髄内に構築することを明らかとした。さらに、がん細胞と線維芽細胞との相互作用を詳細に検討するため、骨髄内への腫瘍投与後に骨髄内で増殖している4T1.3クローンと骨髄内に集積した線維芽細胞を、それぞれフローサイトメトリー法にて分取し、骨内の4T1.3クローンのみで発現が亢進するレセプター分子と、線維芽細胞で発現亢進しているリガンド分子の組み合わせを、包括的な遺伝子発現解析を通して、抽出することを試みた。 抽出された候補レセプター分子群の4T1.3クローンの骨転移過程への役割を検討するために、候補分子群の遺伝子発現をCRISPR-Cas法で欠失させた4T1.3クローンの、骨内接種時の増殖能を解析した。その結果、レセプターX遺伝子の欠失によってのみ、増殖能が顕著に減弱することを見出した。さらに、骨内環境下の4T1.3クローンならびにヒト乳がん患者の骨転移巣での乳がん細胞において、レセプターXが免疫染色で検出されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
包括的遺伝子発現解析の結果、抽出された候補レセプター分子群の発現をCRISPR-Cas9法によって欠失させた4T1.3クローン株を樹立した。得られた細胞株を骨髄内に直接接種し、骨内における腫瘍増殖能を検討した結果、レセプター分子Xの欠失によってのみ、腫瘍増殖が有意に抑制されることを見出した。さらに、骨内環境下の4T1.3クローンならびにヒト乳がん患者の骨転移巣での乳がん細胞において、レセプターXが免疫染色で検出されることを見出した。一方で、骨髄内微小環境特異的な候補受容体の発現亢進機構の解明を試み、低酸素状態とスフェロイド培養を組み合わせるなど、種々の培養条件での検討を行ったが、候補分子の発現亢進を誘導する培養条件の同定には至らなかった。しかしin silicoを用いた、レセプターX遺伝子プロモーター領域の網羅的な解析と、骨転移巣での4T1.3クローンの包括的遺伝子発現解析の結果、骨転移巣でのレセプターX遺伝子発現亢進に関与している可能性が高い転写因子群を抽出することができた。以上の結果から、当初の計画以上に、本研究は進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、骨転移巣で選択的に発現が亢進しているレセプター分子Xが4T1.3クローンにおける骨転移過程に密接に関与している可能性が示唆された。レセプター分子Xを誘導性に欠失する4T1.3クローンならびにX分子を強発現する親株4T1クローンを樹立し、レセプター分子Xの病態生理学的役割をさらに詳細に検討することを計画している。さらに、別のマウス乳がん細胞株TS/A株やヒト乳がん細胞株より、骨への高転移能を示すクローンを樹立し、得られた細胞株の骨転移過程でのレセプター分子Xの病態生理学的役割を解析し、レセプター分子Xの骨転移過程における役割の一般性を検証することを計画している。一方で、転移巣でのレセプターX遺伝子発現亢進に関与している可能性が高いことが予想される転写因子について、X遺伝子発現亢進過程への関与を分子生物学的に解析することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでレセプター分子Xに対する市販品の抗体を使用していたが、今後の詳細な解析には市販品では特異性が不十分あり、外注にてウサギをホストとした抗体の作成を依頼した。 しかし標的としている分子の性質上、通常の抗体作成プロトコルでは抗体の作成が困難であると考えられた。そこで、より長期間を要する抗体作成プロトコルの使用を依頼したが、その場合、年度内の納品が困難であるとの回答を業者より得た。そこで、次年度の納品後に支払いが可能となるよう、抗体作成に必要な経費を次年度分として請求するに至った。 次年度は、作成した抗体をフローサイト法やウェスタンブロッティング法での解析に使用し、レセプター分子Xの発現解析をもとに骨転移過程でのレセプター分子Xの病態生理学的役割を解析する。
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