研究課題
がんの悪性進展において、がん特有の代謝調節の存在やその重要性が示されてきた。しかし、エネルギー代謝調節とがんの未分化性・悪性形質との連関の詳細は不明である。申請者は、悪性脳腫瘍(膠芽腫)モデルと化合物スクリーニングを組み合わせ、mTOR複合体1の活性化が、酸化的リン酸化を介したATP産生亢進作用によって未分化性を維持していることを見出した。また、この過程において得られたmTOR複合体1の活性が高い膠芽腫細胞のスフィア形性能をより効果的に抑制する化合物(候補化合物)は、mTOR複合体1の下流機能であるオートファジーを誘導した。がんにおけるオートファジーの機能はがんの種類や状況によって異なり、がんの促進や治療薬に対する抵抗性に働く場合、逆に、発がん抑制や治療薬に対する感受性に働く場合の両方が報告されている。そこで、我々の膠芽腫の系におけるオートファジーの役割を明らかにするために、患者由来膠芽腫細胞を用いて、オートファジー関連因子ATG5のノックアウト細胞を作製した。ATG5欠損細胞はLC3-IIの形成が起こらず、標準的オートファジー機能の欠損が確認できたが、スフィア形性能、増殖能、マウスにおける腫瘍形成能はコントロール細胞と差異はなかった。また、膠芽腫の治療薬テモゾロミドに対する感受性にも差がなく、オートファジー欠損による影響は見られなかった。しかし、ATG5欠損細胞は候補化合物に対してコントロール細胞より高い感受性を示した。候補化合物は細胞内カルシウム濃度を上昇させ、カルシウムシグナルの阻害によってATG5欠損細胞の感受性が抑制されたことから、オートファジー欠損膠芽腫細胞はカルシウムシグナルの異常な活性化に対し感受性を示すことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
がんにおけるオートファジーの機能はがんの種類や状況によって異なり、がんの促進や治療薬に対する抵抗性に働く場合、逆に、発がん抑制や治療薬に対する感受性に働く場合の両方が報告されている。そのため、オートファジー経路をがん治療に利用するためには、がん細胞の薬剤応答におけるオートファジーの役割とその機構を明らかにする必要がある。我々は、膠芽腫細胞において、オートファジー欠損がカルシウムシグナルの異常を引き起こす薬剤に対する感受性を上昇させることを明らかした。これによりオートファジーと薬剤応答を結びつける機構が明らかになり、オートファジー経路のがん治療への応用を前進させる成果であるため。
本研究課題において、これまで、膠芽腫細胞を用いて、オートファジー阻害がカルシウムシグナルの異常を誘導する薬剤に対して感受性を増加させることを明らかにした。カルシウムシグナルは細胞において様々に利用されているため、候補化合物が引き起こすカルシウムシグナルの異常を解析し、感受性に重要なカルシウムシグナル経路を明らかにする。また、オートファジーは代謝制御やミトコンドリアの機能維持に関与している。そのため、オートファジー欠損による代謝異常やミトコンドリアの機能異常を明らかにし、薬剤感受性との関連を解析し、この感受性上昇において必要となる、オートファジー阻害時の状態異常を明らかにする。これらの解析を通して、より効果的な薬剤の組み合わせを検討し、新しい膠芽腫の治療法を探索していく。
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