研究課題
がんの悪性進展において、がん特有の代謝調節の存在やその重要性が示されてきた。そこで、申請者は、エネルギー代謝調節とがんの未分化性・悪性形質との連関性を明らかにするため、悪性脳腫瘍(膠芽腫)モデルと化合物スクリーニングを組み合わせ、ミトコンドリアを傷害し、エネルギー代謝を抑制する化合物(候補化合物)が、膠芽腫細胞の生存率を抑制し、オートファジーを誘導することを見出した。そこで、オートファジー欠損細胞を作製し、解析したところ、オートファジー欠損は候補化合物に対する感受性を増加させた。さらに、候補化合物の作用を解析し、これらの化合物は細胞内カルシウム濃度を増加させ、カルシウムシグナルの異常を引き起こし、ミトコンドリアの活性酸素やアポトーシスを増加させること、逆に、カルシウムシグナルの阻害が候補化合物に対する感受性を抑制することを明らかした。マウスを用いた実験により、オートファジー阻害とカルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物の組み合わせが、単剤の処置と比較し、より腫瘍抑制効果があることを示した(Cancer Sci. 2018,109(8):2497-2508)。また、抗精神薬の一部が、カルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物と同様の効果があることを見出した。抗精神薬は中枢神経に作用するため、血液脳関門を通過でき、膠芽腫の治療に適していると考えられる。本研究は、膠芽腫において、オートファジーと薬剤応答を結びつける機構を明らかにし、膠芽腫の治療における、オートファジー経路の利用の有効性を示した。
2: おおむね順調に進展している
がんにおけるオートファジーの機能はがんの種類や状況によって異なり、がんの促進や治療薬に対する抵抗性に働く場合、逆に、発がん抑制や治療薬に対する感受性に働く場合の両方が報告されている。そのため、オートファジー経路をがん治療に利用するためには、がん細胞の薬剤応答におけるオートファジーの役割とその機構を明らかにする必要がある。我々は、膠芽腫細胞において、オートファジー阻害がカルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物に対する感受性を上昇させ、逆に、カルシウムシグナルの阻害が候補化合物に対する感受性を抑制することを明らかした。さらに、マウスを用いた実験により、オートファジー阻害とカルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物の組み合わせが、単剤の処置と比較し、より腫瘍抑制効果があることを示した(Cancer Sci. 2018,109(8):2497-2508)。また、抗精神薬の一部が、カルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物と同様の効果があることを見つけ、その作用機構を解析中である。本研究は、膠芽腫において、オートファジーと薬剤応答を結びつける機構を明らかにし、膠芽腫の治療における、オートファジー経路の利用の有効性を示した。
本研究課題において、オートファジー阻害が、カルシウムシグナルの異常を誘導する候補化合物に対する膠芽腫細胞の感受性を増加させることを明らかにした。オートファジーは細胞の飢餓状態時に、自食作用によって、エネルギーやアミノ酸の供給に働くとされている。そのため、カルシウムシグナルの異常を誘導する候補化合物に対する感受性における、オートファジーの役割を明らかにするため、オートファジー阻害時の代謝経路の異常をメタボローム解析により探索する。さらに、オートファジー阻害時の感受性の増加に関与する代謝経路を明らかにするため、ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウトスクリーニングを行う。また、本研究において、抗精神薬の一部が、カルシウムシグナルの異常を引き起こす薬剤と同様の効果があることを見つけたため、より詳細に、抗精神薬とカルシウムシグナルの異常を引き起こす候補化合物との作用の比較を行い、その作用機構を解析し、新しい膠芽腫の治療法を探索する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Cancer Science
巻: 109 ページ: 2497-2508
10.1111/cas.13695