研究課題
大腸がんの転移・再発にはp53をはじめとするドライバー遺伝子変異の蓄積が重要であるが、p53に関してはミスセンス変異と同時に野生型p53が欠損するLoss of heterogeneity (LOH)が起きていることが知られる。このP53-LOHは大腸がんだけでなくほとんどのがんで93%以上という高頻度の発生率が示されており(J. Pathol. 2014; 232: 522-533)、p53ミスセンス変異とp53LOHによる悪性化形質獲得機構の解明は重要である。申請者らが開発した大腸がん悪性化モデルマウスから樹立した腫瘍オルガノイド(AKTP+/Mutオルガノイド)から、p53-LOHを誘導(特許申請中)したオルガノイド(AKTPLOHオルガノイド)を作製した。またCRISPR-Cas9システムを用いp53欠損オルガノイド(AKTPNullオルガノイド)も作製し、p53 statusの違いによるこれらの悪性度の違いをin vitroおよびin vivoで検証した。まず、単細胞として単離した際のAnoikis (アポトーシス感受性)や1細胞からのClonal Expansion能力に関して、AKTP+/Mut やAKTPNullよりAKTPLOHオルガノイド細胞が最も高いことが示された。また、これらのオルガノイド細胞をマウスへ移植するとTumor initiation abilityについてAKTPLOHオルガノイド細胞が最も高い能力があることが示された。さらにこれらのシングルセルシークエンス解析やRNA発現解析も行ないp53LOHによって変化する遺伝子群について明らかにすることで、p53LOHによるがん悪性化形質獲得機構について、詳細な分子メカニズムを明らかする。
2: おおむね順調に進展している
申請者らが開発した大腸がん悪性化モデルマウスから樹立した腫瘍オルガノイド(AKTP+/Mutオルガノイド)をマウス脾臓に移植し肝転移した腫瘍組織において、野生型p53が消失している、すなわち転移先でp53-LOH細胞が優先的に選抜されていることを突き止めた。またゲノムのCGH解析やオルガノイド細胞上のp53染色体の検出(FISH)、p53ミスセンス変異特異的プローブを用いたqPCRによる定量から、観察されているP53-LOHが、コピー数の変化がないCopy neutral LOHであることを証明した。さらにCRISPR-Cas9システムを用いp53欠損オルガノイド(AKTPNullオルガノイド)を作製しFACS解析からAKTP+/Mut やAKTPNullよりAKTPLOHオルガノイド細胞が最もAnoikis耐性であることを示した。合わせて、これらのシングルセルシークエンス解析も行なっており、現在論文を執筆中である。
研究計画全体は、ほぼ順調に進んでいるので申請書に記載した計画通りに推進する。申請者らのこれまでの研究によってAKTPLOHオルガノイド細胞にDormancyな状態から高い確率で腫瘍形成能力があることが証明されたことから、これらの細胞にin vivoイメージング用ラベルを施したものと、他のp53 statusの細胞(AKTP+/Mut やAKTPNull)にイメージング用ラベルをしたものをそれぞれ作製し、混合したものをマウスの脾臓に移植し、混合率と腫瘍形成の頻度を比べる。これにより異なったp53遺伝子背景の違いが、腫瘍転移巣においてどのような違いを生むか検証する。また、さらにP53-LOHが起きていないヒト大腸がんオルガノイドについて、P53-LOHを誘導し悪性化の進行について検討する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
J Mol Cell Biol,
巻: Epub. ahead of print ページ: 1-10
10.1093/jmcb/mjy075.
Cancer Research
巻: 78 ページ: 1334-1346
10.1158/0008-5472.CAN-17-3303