研究課題/領域番号 |
17K07169
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡 公佑 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (90596834)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | NDRG1 / VEGF / VEGFR2 / PLCγ / 血管内皮細胞 / カルシウム |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにN-myc downstream regulated gene 1(NDRG1)ノックアウト(KO)マウスへのがん細胞皮下移植実験より、腫瘍関連マクロファージの浸潤数とVEGF発現量の低下により腫瘍内での新生血管密度と腫瘍体積の減少を観察した。これらはがん微小環境におけるNDRG1発現が腫瘍血管新生と密接に関与していることを示している。さらに、NDRG1 KOマウスでは骨髄由来前駆細胞から破骨細胞への分化能の低下とVEGF誘導の血管新生が特異的に誘導されないことを観察している。平成29年度には血管内皮細胞におけるNDRG1の発現抑制により、VEGF誘導の増殖と遊走能が低下し、VEGFR2下流シグナル因子であるERKのリン酸化が低下していることを明らかにした。 そこで平成30年度は血管内皮細胞におけるNDRG1のVEGF/VEGFR2シグナルへの関与について検討し、以下の結果を得た。 [1] ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いたin vitro系で、siRNAによるNDRG1の発現抑制により、VEGFR2下流シグナル因子であるERKの低下と共に、VEGFにより誘導される細胞内カルシウム濃度の上昇が抑制された。 [2] HUVECを細胞内カルシウムキレート剤であるBAPTA-AMで処理すると、VEGF誘導の細胞増殖阻害と共に、VEGFR2下流シグナル因子であるERKのリン酸化も抑制された。 [3] HUVECをsiRNAによりNDRG1の発現抑制を行うと、VEGF刺激時にERKのリン酸化の低下と共に細胞内カルシウム濃度を上昇させるPLCγのリン酸化が低下していた。一方、FGF-2刺激時にはPLCγのリン酸化は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マウス由来肺血管内皮細胞とヒト臍帯静脈血管内皮細胞を駆使して、血管内皮細胞でのNDRG1発現抑制により、VEGF/VEGFR2シグナル活性が抑制されることを明らかにした。さらに、血管内皮細胞でのNDRG1の発現抑制は、VEGFR2下流シグナル因子であるPLCγの活性化を介してVEGFシグナルを抑制していることを明らかにした。また、FGF-2刺激時にはPLCγのリン酸化は観察されず、これらの結果はin vivo系で観察された結果を支持するものであった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、NDRG1が血管内皮細胞のPLCγを介してVEGFシグナルに関与していることをマウス由来の血管内皮細胞やヒト臍帯静脈血管内皮細胞を用いて明らかにした。 今後は、マウス由来肺血管内皮細胞やヒト臍帯静脈血管内皮細胞を用いてNDRG1がどのようなメカニズムでPLCγの活性化を制御し、VEGFシグナルを制御しているかの詳細なメカニズムを明らかにする。すなわち、NDRG1がPLCγと結合しているか否かやNDRG1のどの部位がPLCγの活性化に必須なのかについて、NDRG1の欠損変異体などを用いた共免疫沈降法やウエスタンブロッティング法を用いて明らかにする。 また他研究施設と共同してNDRG1やその関連シグナル阻害剤の探索を行う。同時にNDRG1やその関連因子のがん治療標的としての有用性についてマウス投薬治療実験系を駆使して評価する。さらに、がん患者(特に胃癌、肺癌、膵癌、乳癌など)の切除検体を対象にして、NDRG1やその関連因子を特異的に認識する抗体を用いた免疫組織染色法により、NDRG1高発現細胞の同定と、血管新生関連因子とNDRG1発現の関連を検討し、NDRG1を対象とした血管新生阻害治療を提示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より自家繁殖マウスの生産数が少なかったため、マウスの維持費が減少したため。次年度は自家繁殖マウス数を増加させ、より円滑に研究を推進して いく。
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