研究課題
我々はこれまでにN-myc downstream regulated gene 1(NDRG1)ノックアウト(KO)マウスへのがん細胞皮下移植実験より、腫瘍関連マクロファージの浸潤数とVEGF発現量の低下により腫瘍内での新生血管密度と腫瘍体積の減少を観察した。これらはがん微小環境におけるNDRG1発現が腫瘍血管新生と密接に関与していることを示している。さらに、NDRG1 KOマウスでは骨髄由来前駆細胞から破骨細胞への分化能の低下とVEGF誘導の血管新生が特異的に誘導されないことを観察している。平成30年度までに血管内皮細胞におけるNDRG1の発現抑制により、VEGF誘導の増殖と遊走能が低下し、VEGFR2下流シグナル因子であるERKとPLCγのリン酸化が低下していることを明らかにした。そこで令和元年度ではNDRG1によるPLCγシグナルを介したVEGF/VEGFR2シグナルの制御メカニズムについて検討し、以下のことを明らかにした。[1] ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いたin vitro系で、NDRG1は自身のリン酸化部位を介してPLCγと結合していた。[2] HUVECにNDRG1のリン酸化部位欠失変異体を過剰発現させると、VEGF刺激によるPLCγ及びERKのリン酸化の低下が観察された。[3] HUVECをVEGFで刺激すると、活性化したPLCγはNDRG1と複合体を形成し、VEGF/VEGFR2下流シグナルの伝達に重要な細胞膜へ移行していることを明らかにした。[4] PLCγ阻害剤の投薬は、NDRG1 KOマウスと同様にVEGF-A誘導の血管新生を抑制した。以上のことよりNDRG1はPLCγと複合体を形成し、PLCγの活性化を介してERKシグナルを亢進し、VEGF誘導の血管新生に関与していることを明らかにした。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Communications Biology
巻: 3 ページ: 107
10.1038/s42003-020-0829-0
Cancer Research
巻: 80 ページ: 234~248
10.1158/0008-5472.CAN-19-0438