研究課題/領域番号 |
17K07173
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
高橋 英嗣 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30206792)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | がん / 遠隔転移 / 細胞遊走 / がん微小環境 / MDA-MB-231 / 酸素濃度勾配 / pH勾配 |
研究実績の概要 |
本研究では、がんの血行性遠隔転移の初期メカニズム解明とその制御を目指し、「がん細胞は細胞外微小環境中の代謝勾配を手がかり(cue)として能動的に微小血管を目指し遊走することで血管内侵入の確率を増加させる」との仮説をMDA-MB-231細胞を用いたin vitro実験で検証している。H26-H28の基盤研究(C)(課題番号26430117)において、われわれが独自に開発したgap cover glass(GCG)を用いて細胞外に代謝勾配を形成すると、①細胞は方向性に遊走すること、②方向性遊走をもたらすcueは細胞外酸素濃度勾配とは考えづらいこと、を明らかにした。これらを受けて、本研究では、上記GCGを用いた方向性細胞遊走検定の弱点であった、細胞どうしの衝突によるアーチファクトを大幅に低減可能なwound healing assayにGCGを組み合わせた新しい方法を開発し、その効果を検証した。この改良した方法を用いて、細胞の方向性遊走のcueが細胞外酸素濃度勾配とは考えづらいことを細胞外酸素濃度イメージングの併用により再度確認した。続いて、酸素濃度以外のcueとして細胞外pH勾配を想定し、細胞外pH勾配のイメージングおよびpH勾配を消滅させる方法を考案した。細胞外pH勾配の消滅に伴い、細胞の方向性遊走が消失したことから、本実験条件におけるMDA-MB-231細胞の方向性遊走は細胞外pH勾配に依存することが示唆された。また、in vitroで低転移性を示すと言われているMDA-MB-468細胞ではGCG/wound healing assayにおいて方向性遊走は見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初実施計画にある実験方法の改良については問題なく解決された。同じく、細胞外pH勾配による方向性遊走の可能性についても検証は進んだが、途中、データの再現性に関する問題が発生した。これは実験を担当していた大学院生の修了に伴い他の大学院生が実験を引き継いだが、その際、実験条件の設定がうまく引き継がれなかったことに起因することが判明した。現在では、再現性の問題は解決されているが、このため実験計画に多少の時間的遅れが生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの成果である、細胞外pH勾配による方向性細胞遊走という結論をさらに強固なものにするため、細胞外pH勾配を様々に変化させ方向性遊走誘導にcriticalな条件を明らかにする。次に細胞外pH勾配をcueとした方向性細胞遊走の細胞内メカニズムを検討する。細胞の遊走方向と1個の細胞内部に形成されるpH勾配が相関することが報告されている(Am J Physiol, 2010)ことから、GCG直下の細胞の細胞内pHイメージングを行うことで方向性遊走に重要な分子メカニズムを推定する。一方で、細胞遊走のcueとなる分子が特定できただけでは、細胞遊走の方向性を説明することは困難と思われる。なぜなら細胞のサイズに対応するmetabolic gradientsの絶対値は極めて小さく、このような微弱な情報を細胞が正確にセンシングし、それが遊走方向をロバストに決定するとは考えづらいからである。したがって、細胞外微小環境による細胞遊走制御の新しいスキームを提案する必要が生じる。現在、細胞の遊走方向は基本的にはランダムなものの、遊走速度が細胞外のmetabolic cueにより修飾されることで、長いタイムスケールでは方向性が生まれるという仮説を持っている。この仮説をコンピュータシミュレーションで検討する準備を始める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
端数のため。
|