研究課題/領域番号 |
17K07174
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大坪 和明 熊本大学, 大学院生命科学研究部(保), 教授 (30525457)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん糖鎖 / sTn抗原 / がん転移 |
研究実績の概要 |
がんの進展に伴って生じる低酸素環境へのがん細胞の応答は浸潤・転移、血管新生等に深く関与しているが、その詳細な分子機構や意義は十分には解明されていない。これまで申請者らは腫瘍内低酸素環境により誘導されたシアリルTn糖鎖 (sTn)抗原が、インテグリンシグナルを介したがん細胞の浸潤亢進及び、周辺細胞を使役することにより転移を促進させる機能分子であることを明らかにしてきた。本研究ではさらにsTn抗原によるインテグリン活性化機構及び、sTn抗原含有エクソソームによるがん細胞の増殖・浸潤制御機構に着目し、sTn 抗原を介した低酸素環境がん細胞の利己的転移戦略の解明を目的とした研究を推進している。 本研究初年度はsTn抗原発現細胞においてインテグリンシグナルの増強のメカニズム解析から、インテグリンmRNAの発現上昇を伴わないタンパク質レベルの上昇が観察された。その原因が、細胞表面におけるインテグリンタンパク質の安定化によるタンパク質の増加に起因することを明らかにした。 加えて、腫瘍組織においてsTn抗原発現細胞はアポトーシス抵抗性を示すことを見出し、その原因がsTn抗原発現による抗酸化酵素の誘導であることを示す知見を得た。 さらに、sTn抗原発現細胞では、非発現細胞と比較してエクソソーム産生レベルの増加や産生エクソソームの取り込み量が増加することによる情報伝達が促進していることを示す知見を得た。今後、そのメカニズムの解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
sTn抗原発現細胞においてインテグリンシグナルが増強されるメカニズムを解析したところ、sTn抗原発現細胞では、インテグリンmRNAの発現上昇を伴わずに、タンパク質レベルが上昇していることが判明した。この結果は、インテグリンタンパク質量がpost translationalの制御を受けていることを意味している。そこで、細胞表面タンパク質をビオチン標識し、その後細胞表面のインテグリン分子の減衰速度を解析した結果、sTn抗原発現細胞では、インテグリンタンパク質の半減期が約3倍に延長しており、その分子寿命延長のためタンパク質が増加していることが判明した。 腫瘍組織では、sTn抗原発現細胞領域において、酸化ストレスレベルが低いことが見出され、それに符合してアポトーシス細胞も殆ど観察されなかった。腫瘍組織内では虚血再灌流が繰り返されていることは周知の事実であり、この結果から、低酸素環境に誘導されたsTn抗原が何らかの抗酸化酵素を誘導し、虚血再灌流への抵抗性を獲得したものと考えられた。事実、sTn抗原発現細胞では、スーパーオキサイドの消去酵素であるSOD2が高度に誘導されていることを見出し、さらに、sTn抗原発現細胞では虚血再灌流負荷によるスーパーオキサイド産生レベルの抑制とアポトーシスの抑制が観察された。 sTn抗原発現細胞と非発現細胞が産生するエクソソームを精製し、蛍光標識し、その後培養細胞への取り込み量を顕微鏡観察により解析した。その結果、sTn抗原発現細胞が産生するエクソソームの方が、より高度に取り込まれることが判明し、これが、エクソソーム受容細胞の増殖抑制や運動能低下に大きく寄与していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
細胞表面におけるsTn抗原発現インテグリンタンパク質の安定化のメカニズムとして、細胞表面にcisでsTn抗原を認識・結合する分子が発現していることが考えられる。そこで、次年度からはsTn抗原発現インテグリン分子と相互作用する分子をEMARS法により探索し、分子メカニズムの解明に取り組む。 sTn抗原発現細胞におけるSOD2の発現誘導のメカニズムを明らかにするため、sTn抗原発現細胞におけるSOD2遺伝子の発現制御メカニズム、さらにはsTn抗原によって転写がどのように制御されているのかを明らかにしていく。 sTn抗原発現細胞が産生するエクソソームの受容細胞への取り込み量の増加の原因が、元々のエクソソームの産生量の増加に起因するものなのか、sTn抗原の分子機能に起因するものであるかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
sTn抗原発現細胞におけるインテグリン分子の活性化メカニズムの解析、抗酸化酵素の誘導解析、sTn抗原発現細胞が分泌するエクソソームの機能解析が予想以上に進展したため、エクソソームが含有するmiRNA解析を次年度に回すことになった。そのため、解析費用が次年度への繰り越しとなった。次年度には本解析を行うため、当予算を執行する予定である。
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