がんの進展に伴って生じる低酸素環境へのがん細胞の応答は浸潤・転移、血管新生等に深く関与しているが、その詳細な分子機構や意義は十分には解明されていない。これまで申請者らは腫瘍内低酸素環境により誘導されたシアリルTn糖鎖 (sTn)抗原が、インテグリンシグナルを介したがん細胞の浸潤亢進及び、周辺細胞を使役することにより転移を促進させる機能分子であることを明らかにしてきた。本研究ではさらにsTn抗原によるインテグリン活性化機構及び、sTn抗原含有エクソソームによるがん細胞の増殖・浸潤制御機構に着目し、sTn 抗原を介した低酸素環境がん細胞の利己的転移戦略の解明を目的とした研究を推進している。 本年度は、エクソソーム分泌亢進メカニズムを明らかにする目的で、先行研究からsTn抗原によるエクソソーム分泌促進に深く関与することが判明したTSAP6の細胞内機能に着目して解析を行った。その結果、TSAP6自身の鉄還元機能を反映して、ミトコンドリア内2価鉄が上昇するという結果を得ることができた。 一方、sTn抗原含有エクソソームを受容した細胞では細胞の運動能が上昇することが観察されていたが、これを裏付けるようにsTn抗原含有エクソソーム内にはFAKタンパク質が多く含まれていることが示された。 一方、先行研究より取得したsTn抗原合成酵素であるST6GalNAC-Iの阻害剤がFAKの分解により即時的な細胞浸潤能の抑制効果を有することをその作用メカニズムとともに明らかにした。
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