研究課題
転写因子NF-κBやAP-1は細胞増殖や生存に重要な遺伝子発現を制御する成人T細胞白血病(ATL)の治療標的分子である。本研究では、転写因子の核内輸送蛋白質インポーチン(IPO)がHTLV-1感染を原因とするATLの治療標的となるかを検証した。IPOの二つのサブユニットαとβのうち、βファミリーの一つIPOβ1の発現がHTLV-1感染によりT細胞に誘導された。IPOβ1のノックダウン(K/D)やIPOβ1阻害剤Importazole(IPZ)、IPOα/β1阻害剤であり、感染者に合併感染する糞線虫症の駆虫薬Ivermectin(IVM)は感染T細胞株の増殖や生存を抑制した。両阻害剤はNF-κB(RelA)やAP-1(JunB/JunD)の核内移行やDNA結合を阻害し、両転写因子制御下の細胞周期関連蛋白質(c-Myc、cyclin D1/D2/E、CDK2/4/6)やアポトーシス阻害蛋白質(survivin、c-IAP1/2、XIAP、Bcl-xL)の発現を抑制した結果、G1期での細胞周期停止とカスパーゼ3/8/9依存性のアポトーシスを誘導した。さらに、ATLのマウスモデルでは、IVMの経口投与が抗腫瘍効果を発揮した。カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)を原因とするB細胞性の原発性体腔液性リンパ腫(PEL)についてもIPOβ1の発現を検討したところ、KSHV感染PEL細胞株で発現が増強しており、IPOβ1のK/DやIPZ、IVM処理はPEL細胞株の増殖や生存を抑制した。試験管内実験や動物実験でも両阻害剤は抗PEL効果を発揮し、その作用機序はATLと同様であった。蛋白質を核から細胞質へ搬出するエクスポーチンの阻害剤もHTLV-1感染T細胞株にG1期での細胞周期停止とアポトーシスを誘導したことから、核―細胞質間輸送因子がATLやPELの新規治療標的となる可能性が証明された。
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European Journal of Pharmacology
巻: 872 ページ: 172953~172953
10.1016/j.ejphar.2020.172953