研究課題/領域番号 |
17K07176
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
川口 知哉 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (70254422)
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研究分担者 |
洪 泰浩 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (80426519)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺がん / 発がん / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
喫煙が肺がんの主要な原因であることは証明されているが、環境因子とゲノム異常がどのように関連するかについては詳しくわかっていない。我々はこれまで多施設・前向きの分子疫学研究Japan Molecular Epidemiology (JME)試験を行い、喫煙、肥満、受動喫煙等が肺がんの遺伝子変異と有意に関係することを報告してきた。本研究では発癌における環境因子の関係をさらに解明するために、同じ症例の同じ環境下で発生したと考えられる多発肺がんに着目し、それらの病変が分子生物学的にどの程度同じ変化や異常をおこしているかを調べるためにゲノム解析に取り組む。大阪市立大学付属病院では、2007年から2015年にかけて包括同意のもとに受診患者の凍結標本と末梢血液がバンキングされており、その中には720例の肺がん手術症例が含まれており、臨床情報を伴うデータベースが構築されている。その中から、多発肺癌症例に関して、24名57病変をキャンサーボードで確定した。がんの遺伝子変異に関してパネルを用いた次世代シーケンサーで解析を行う研究については倫理委員会での承認を得た。大部分が早期肺がんの検体であったが、現在までに、18症例、39病変に関して、NGSを用いて、409遺伝子を調査し遺伝子変異を同定している。統計解析を準備中である。 一方、米国のSWOG0424(大規模分子疫学研究)とも共同研究を予定しており、成果の一部は2017年の世界肺癌学会総会(招聘講演)、2018年5月の第一回Guangdong Association of Thoracic Disease Symposium for Multidisciplinary Therapy of Lung Cancer(招聘講演)で発表した。2018年10月、S0424の主任研究者と今後の研究のコラボについてDiscussion を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究対象症例の選択基準は、1、大阪市立大学医学部附属病院で手術を行った症例で、組織学的に非小細胞肺癌と診断されている症例、2、Martiniの多発肺癌の診断基準を満たす症例である。近年注目されているintra-tumorheterogeneityを解析に組み込む可能性も考慮し、multiregionよりDNA抽出を行うこととし、実際には選定病変数よりさらに多い、108検体分のDNA抽出を実施した。しかし、一部の検体ではDNAの分解や、早期肺がんの手術検体が多かったために十分量のDNAが抽出できなかった病変も認め、HE染色標本で腫瘍の割合を再検討し、調査検体の追加と絞り込みを行った。全エクソーム解析については、正常対照リファレンス用シーケンシングデータを得るための口腔粘膜採取もしくは採血の実施を検討していたが、一部の患者は既に逝去、あるいは術後経過観察期間満了に伴う終診などから全患者からの文書による同意取得に関しては問題があった。また、費用の問題などもあり、研究者間で幾度も議論を重ねた結果、パネルを用いた網羅的解析を行うこととした。現在までに、18症例、39病変に関して、NGSとPanel(ターゲット遺伝子数:409遺伝子)を用いて、遺伝子変異を同定した。統計解析を準備中である。 さらに、米国のSWOG0424(大規模分子疫学研究)とも共同研究を予定しており2018年の世界肺癌学会総会(トロント、カナダ)においても、主任研究者のAlbain教授、Mack教授とDiscussion を行ったが、S0424側の研究進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては以下の検討を行う。 1、確定診断された多発肺がん症例の腫瘍組織DNAを用いて網羅的ゲノム解析を行い、腫瘍間で共通したゲノム異常と個々の腫瘍にユニークなゲノム異常を同定する。これにより、初期の発癌に関わるゲノム異常と腫瘍の分化に関わるゲノム異常の解明を行う。2、得られた臨床情報とゲノム情報を統合解析し、肺がんにおける発癌とその後の分化に関わる環境因子を同定する。統計学の専門家と統計解析を準備中である。3、C>Tの塩基置換に関わり、発癌との関連が示唆されている酵素であるApobec3B(Apolipoprotein BMRNA Editing Enzyme, Catalytic Polypeptide-Like 3B)蛋白の発現を腫瘍組織にて測定し、特定の環境因子暴露情報とゲノム異常、Apobec3B蛋白発現との関連を解析し、肺発癌におけるApobec3B蛋白の関与を解明する。4、日米の大規模分子疫学研究のJME試験、SWOG0424試験のデータに本研究の結果も組み入れての共同解析を行い、人種差の肺発癌への関係を明らかにする。 平成31年度は、1、さらに多くのゲノムデータ収集のため、研究期間中は継続的にさらなる症例追加登録を行う。2、抽出したDNAに対し順次次世代シークエンスを用いた網羅的ゲノム解析を実施する。3、手術時組織切片を用いて免疫染色にてApobec3Bの発現の検討を行う。4、免疫チェックポイントの発癌への関与も示唆されることから、PD-L1の免疫染色も行う。以後平成31年度にかけて、得られた臨床情報、特定の環境因子暴露情報、網羅的ゲノム解析およびApobec3B蛋白や免疫チェックポイント蛋白発現との関連を統合解析し、環境因子の発癌への関与を解明する。以上の結果をとりまとめ、学会および論文発表を行う。さらに日米大規模分子疫学研究との共同解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)ゲノム異常の解析にはパネルを用いた網羅的解析を実施したが、効率よく費用を運用するために上記で候補とした症例・病変よりさらに選定する必要があった。一部の検体ではDNAの分解あるいは早期肺がんの手術検体が多かったために十分量のDNAが抽出できなかった。シークエンスの感度を考慮し、微小な検体や壊死組織を多く含んだ検体などを除外すべく、手術検体における腫瘍/壊死/正常組織の各占有率を病理医に検討を依頼したため時間を要した。 (使用計画)本研究の主たる柱は以下の過程で進められる。1、抽出したDNAに対し次世代シークエンスを用いた網羅的ゲノム解析を引き続き実施する。2、手術時組織切片を用いて免疫染色にてApobec3B・PD-L1発現の検討を行う。30年度使用となる予算は、次世代シークエンス関連試薬と免疫染色関連試薬を含む消耗品等の物品費、情報収集・情報交換等のための学会、打合せ等会議に必要な旅費等で使用される予定である。
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