研究課題/領域番号 |
17K07180
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
吉川 大和 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20274227)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラミニン / 基底膜 / 細胞接着 / CD239 / インテグリン |
研究実績の概要 |
CD239は、癌細胞の表面で発現上昇する抗原として見出された経緯を持ち、ラミニンα5鎖を含むラミニン-511/521に特異的に結合する。CD239のリガンドであるラミニン-511/521が存在する基底膜は、非常に薄い膜状の構造体であり、細胞を秩序よく接着させ組織を安定化させている。この特殊な基底膜は様々な病態において乱れるため、細胞の形態が維持できなくなり、組織としての機能が破綻する。同時に病態における細胞は、基底膜に対する受容体などの発現を低下または上昇させるため、組織の恒常性を乱してしまう。CD239のノックアウトマウスは、ほとんど目立った表現型が見られなかったが、肝障害実験においてCD239が肝再生過程において胆管上皮細胞の移動および胆管の形成に関与することが明らかになった。CD239は障害などで生じた細胞内の変化を細胞外へ伝える作用点として働いていることが示唆された。また乳癌では、CD239が悪性の指標であるHer2とともに、または単独で、乳癌組織に強く発現している癌抗原であることを明らかにした。さらに、CD239が悪性の乳癌細胞において内在化されることを見出し、抗体-薬物結合体の作製において求められる標的抗原として有用であることが示された。さらに、治療を目的とする抗体-薬物結合体の抗体には、ヒト型であることが求められる。以前の研究により、CD239に対するファージ抗体をヒト肝細胞癌患者のライブラリーから単離している。このファージ抗体の抗原結合部位(scFv, C7)とヒト免疫グロブリンIgG1 Fcドメインを組合せたヒト型抗体であるC7-Fcを作製することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、(1)ラミニン-511に対する細胞接着および運動におけるCD239とスペクトリン相互作用の役割、および(2)走化性因子によるCD239とスペクトリンの局在への影響の解明を行った。CD239の細胞内ドメインには、細胞膜を裏打ちする細胞骨格蛋白質であるスペクトリンと結合する領域が存在している。(1)では、これまでに、スペクトリン結合部位を欠損させたCD239はラミニン-511による細胞運動を促進することを明らかにした。さらに、細胞接着アッセイにより、ラミニン-511に対する細胞接着が抑制されるのを見出した。しかしながら、癌化によってCD239のスペクトリン結合部位が欠損することはない。実際には、スペクトリンに対してCD239が過剰になるか、またはスペクトリン発現の減少が考えられる。細胞株におけるスペクトリンの発現を調べたところ、ラミニン-511により運動が促進される肺癌由来のA549細胞ではスペクトリン(SPTAN1)の発現がほとんど見られなかった。このことから、CD239とスペクトリンの相互作用が失われることで、細胞運動が促進されている可能性を示した。(2)では、既に運動性が高いA549細胞ではなく、静的および動的な状態がはっきりしているイヌ尿細管上皮由来MDCK細胞を用いることにした。ラミニン-511に接着したイヌ尿細管上皮由来MDCK細胞は、肝細胞増殖因子(HGF)により運動が促進される。しかしながら、種の異なる細胞を使用する場合、抗体の交差性が問題になる。本年度では、イヌのスペクトリンに反応する抗体を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、(1)ラミニン-511に対する細胞接着および運動におけるCD239とスペクトリンの役割、および(2)走化性因子によるCD239とスペクトリンの局在への影響の解明を継続する。さらに、(3)CD239とAKT2による融合遺伝子(B-CAM/AKT2)の探索および細胞接着・運動における役割の解明を行う。(1)では、スペクトリンの発現が弱い細胞に、スペクトリンを強制発現させることで、CD239とスペクトリン相互作用の細胞接着および運動における役割を明らかにする。(2)では、前年度に引き続き、イヌ尿細管上皮由来MDCK細胞を用いて行う。細胞の静的および動的状態でのCD239とスペクトリンの局在への影響を明らかにする。(3)では、卵巣癌の遺伝子変異において、CD239の細胞内ドメインにプロテインキナーゼのひとつであるAKT2が融合して発現することが報告された。本研究では、これまでにCD239の発現上昇が確認されている肝細胞癌および卵巣癌と同様の遺伝的リスクによって生じる乳癌の細胞株について、融合遺伝子(B-CAM/AKT2)の発現パターンを遺伝子およびタンパク質レベルで明らかにする。プロテインキナーゼであるAKT2は、細胞シグナル伝達経路のマスタースイッチとしての役割を果たし、癌、糖尿病、神経変性など多様な疾患に大きな影響を及ぼすことが知られている。本研究では、融合遺伝子(B-CAM/AKT2)を強制発現させたHT1080細胞を用いて、ラミニン-511に対する癌細胞の接着および運動における役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度をまたいで論文を投稿中であり、論文投稿費用として繰越金が生じている。
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