研究課題/領域番号 |
17K07181
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平田 英周 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (40761937)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳転移 / 分子標的治療 / 薬剤耐性 / 肺がん / アストロサイト / 微小残存病変 |
研究実績の概要 |
① 脳転移指向性ヒト肺がん細胞株の樹立と薬剤応答の確認:ヌードマウス心腔内への接種と脳組織からの回収を繰り返すことにより、脳転移指向性細胞株PC9-Luc-EGFP-BrM3を樹立した。このPC9-BrM3細胞株をヌードマウス心腔内に接種して全身転移を誘導し、EGFR阻害剤ゲフィチニブの投与(0または20 mg/kg/day、2週間)を行った。結果、親細胞株と同様にゲフィチニブによって脳転移巣は劇的な縮小を示したが、やはり脳組織内に散在する微小残存病変の出現を認めた。この微小残存病変から樹立した細胞株(PC9-ES)は内因性の薬剤耐性を一切獲得しておらず、これらの細胞は脳微小環境によってゲフィチニブから一時的に守られていることが示唆された。微小残存病変はGFAP強陽性の活性化アストロサイトに囲まれていることから、ゲフィチニブ耐性には活性化アストロサイトが関与していることが強く示唆された。そこでPC9細胞株とマウス由来アストロサイトを共培養し、ゲフィチニブの投与によって誘導される薬剤耐性の原因となりうる分子の探索を行ったところ、ある特定のサイトカインがゲフィチニブの投与によってアストロサイトから誘導されることが明らかとなった。② 薬剤初期応答のキネティクス解析:ヌードマウス心腔内への接種と脳組織からの回収を繰り返すことにより、ERK活性をリアルタイムにモニタリングできる脳転移指向性細胞株PC9-Luc-EKAREV-BrM3を樹立した。これをヌードマウス心腔内に接種してより効率的に脳転移を誘導し、マウス頭蓋骨に設置したイメージングウィンドウを介して2光子励起顕微鏡下に脳転移巣を捉えることに成功した。ところが親細胞株の場合と同様、同部位を経時的なイメージング(~2週間)にて追跡することは困難であった。代替として、共培養系においてERKのキネティクスを可視化することには成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、EGFR変異を有するヒト肺がん細胞の脳転移指向性亜細胞株を樹立することに成功し、ゲフィチニブに対する応答を経時的に観察することに成功した。またマウス生体内にて微小残存病変を形成する肺がん細胞が内因性の薬剤耐性を一切獲得しておらず、周囲微小環境によって一時的に保護されていることを明らかにした。さらに、この保護機構には活性化アストロサイトが関与しており、特定のサイトカインの関与をタンパクレベルで明らかにした。一方、初期応答と耐性のキネティクス解析を目的とした生体内FRETイメージングでは、脳転移指向性細胞株を用いても同一がん細胞の経時的追跡は困難を極めた。しかしながら代替手法として共培養系によるイメージング解析が進行中であり、3次元培養系における長期間の薬剤応答と耐性のキネティクス可視化が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、治療(ゲフィチニブ投与)の有無に関わらず、脳転移巣の大きさとGFAP 強陽性の活性化アストロサイトの集積・拡がりに単純な相関関係が認められないこと、がん細胞が消滅したと考えられる領域にも活性化アストロサイトの集積が認められていることが明らかとなった。さらに驚くべきことに、マウス脳組織より樹立したアストロサイトにはがん抑制性を示すものが認められた。これらの事象から、GFAP 強陽性の活性化アストロサイトにはがん促進性・抑制性の観点から異なるサブタイプが存在している可能性が示唆される。そこで今後の方針として、脳転移関連アストロサイトをがん脳転移促進性・抑制性の観点から複数のサブタイプに分類する。そしてゲフィチニブ投与経過中に出現する衣装残存病変に集積する活性化アストロサイトがどのサブタイプに属するかを経時的な免疫染色法によって明らかにし、その治療標的としての可能性を検討する。また薬剤応答と耐性のキネティクス解析として3次元コラーゲンゲル・マトリゲル中におけるがん細胞-アストロサイト共培養系を確立し、長期間(~2週間)にわたるリアルタイムイメージングによって微小残存病変の出現に至るERK活性のキネティクスを明らかにし、これらを駆逐しうる最善の治療戦略の立案に繋げる。
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