研究課題
本研究は、長鎖ノンコーディングRNA(long noncoding RNA; lncRNA)によるINK4遺伝子座制御とその破綻による発ガン機構の解明を目的とする。これまでに著者は、INK4遺伝子座に存在する新規lncRNA(lncRNA on the INK4 locus; LOILと命名)を同定した。本研究の結果、LOILをノックダウンすると、ヒト子宮頸癌細胞HeLaの細胞増殖が顕著に抑制されること、INK4遺伝子座のp16遺伝子だけでなく、p15遺伝子の転写も活性化することが明らかとなった。これまでに筆者は、ANRILというlncRNAが、ポリコームタンパク質複合体(ヒストンH3K27のメチル化酵素複合体)をINK4遺伝子座にリクルートすることにより、p15及びp16の転写を抑制することを報告した。しかし、本研究のChIPアッセイの結果、LOILをノックダウンしても、INK4遺伝子座上のヒストンH3K27のメチル化レベルに変化はないことが分かった。これらの結果から、HeLa細胞において、LOILはポリコーム複合体非依存的にp15及びp16遺伝子の転写を抑制する機能を持つことが示唆された。さらに本研究により、INK4遺伝子座の転写を抑制するlncRNA、SLOP(Suppressor lncRNA of p15; SLOPと仮名)を同定した。肺癌細胞H1299において、SLOPをノックダウンすると、INK4遺伝子座のp15遺伝子の転写が活性化され、細胞増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。これらの結果から、SLOPはp15転写抑制を介して、H1299細胞の増殖を正に制御する機能を持つことが示唆された。以上本研究により、INK4遺伝子座の転写抑制に関するLOILとSLOPは、将来的に、ガン治療薬の分子標的になり得ることが期待された。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたLOILの機能解析だけでなく、新たに同定したINK4遺伝子の転写抑制に関与するlncRNA、SLOPの機能解析も行ったため。
今後さらにLOILとSLOPの作用機序の解明を行い、さらに生理的意義の解明を行う予定である。
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