研究課題/領域番号 |
17K07185
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
荒木 啓吾 関西学院大学, 理工学部, 助教 (50756674)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイトファジー / E2F3d / ミトコンドリア / がん |
研究実績の概要 |
悪性度が高いがん細胞では主にミトコンドリアでエネルギーが産生される。また、ミトコンドリア損傷による活性酸素の過蓄積は細胞死を誘導するため、悪性がん細胞ではミトコンドリアの品質管理を行う分子機構が必要となる。研究代表者は悪性度の高いがん細胞で発現が高くなっている転写因子E2F3aに着目し、E2F3aのスプライシングバリアントであるE2F3dを同定した。E2F3dはミトコンドリア外膜に局在し、カルボキシル末端にはオートファゴソームの隔離膜構成因子であるLC3との会合に必要なLC3-interacting region (LIR) motifを含んでいる。In vitroでE2F3dがLC3と会合すること。さらに、E2F3dを強制発現させるとマイトファジーが誘導されることから、E2F3dが悪性がん細胞においてマイトファジー受容体として働くことで不良ミトコンドリアを除去している可能性が示された。子宮頸がん細胞株HeLa細胞においてE2F3dをノックアウト(KO)し、低酸素下で細胞を培養してミトコンドリアに損傷を加えたところ、低酸素培養によって損傷された不良ミトコンドリアは野生型細胞では除去されたがE2F3d KO細胞では除去されなかった。また、野生型細胞に比べてE2F3d KO細胞内には活性酸素が蓄積しているが、E2F3d KO細胞にE2F3dを戻すことで細胞内の活性酸素の量が減退した。以上の結果より、がん細胞においてE2F3dがマイトファジーを誘導し、不良ミトコンドリアを除去することでミトコンドリアの品質維持に働いていることが示唆された。 悪性がん細胞においてE2F3dの機能を阻害すると不良ミトコンドリアを除去できないために活性酸素の過蓄積が起こり、細胞死を誘導できる可能性があることから、E2F3dが悪性がん細胞を選択的に攻撃する標的分子になりえると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①E2F3dとオートファゴソームの隔離膜構成因子との会合を詳細に検討した結果、E2F3dはLC3だけでなく他のオートファゴソーム隔離膜構成因子(GABARAPやGABARAPL2)ともin vitroで会合していた。また、細胞を低酸素下で培養したとき、E2F3d KO細胞ではLC3はミトコンドリア画分に存在しなかったが、E2F3d KO細胞にE2F3dをもどすとLC3がミトコンドリア画分で確認できたことから、ミトコンドリアとオートファゴソームとの融合がLC3とE2F3dの会合に依存して行われている可能性が示された。②E2F3d KO細胞における細胞内活性酸素の量を測定したところ、野生型細胞に比べてE2F3d KO細胞では過酸化水素の量が1.5倍、ヒドロキシラジカルの量が3倍多く細胞内に蓄積していた。E2F3d KO細胞にE2F3dを戻すと過酸化水素やヒドロキシラジカルの量は野生型細胞とほぼ同レベルまで減退したことより、E2F3dによるミトコンドリアの品質管理が細胞内の活性酸素量の制御に関与していると考えられた。③E2F3dの転写レベルでの発現制御について解析した。E2F3dはE2F3aのスプライシングバリアントであるためE2F3aと同様に細胞周期依存的に制御されていると考えられた。正常細胞を無血清培地で培養して休止期に誘導するとE2F3dのmRNA量は有血清培地での培養時に比べて5分の1になった。また、正常細胞にアデノウィルスE1Aを感染させ、がん性変化を加えることで細胞周期を促進させるとE2F3dのmRNA量は5倍となった。この結果から、E2F3dの転写は細胞周期依存的に制御され、がん細胞で活性化されていると考えられた。 以上より「悪性がん細胞においてE2F3dがマイトファジーを通してミトコンドリアの品質管理を行っている」という仮説をサポートする結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
マイトファジーでは不良ミトコンドリアが選択的に分解されて正常なミトコンドリアは分解されないが、不良ミトコンドリアがどのような制御機構によって特異的にオートファゴソームに識別されるかは分かっていない。E2F3dのカルボキシル末端付近にあるLC3との会合に必要な領域(LIR motif)の近辺にはセリン残基・スレオニン残基が多数含まれているため、E2F3dとLC3の会合がE2F3dのリン酸化によって制御されている可能性が考えられる。E2F3dによるマイトファジーを制御する分子機構(シグナル伝達)を解析し、その分子機構が不良ミトコンドリアの識別にどのように関与しているかを検討する。 これまでに低酸素誘導性マイトファジーがE2F3d KO細胞において誘導されなくなることを確認した。しかし、従来のCRISPR-Cas9システムを用いて塩基を欠損させてノックアウトした細胞では、E2F3dだけでなく他のスプライシングバリアントであるE2F3aとE2F3cもノックアウトされているため、E2F3dの役割を特異的に解析したものではなかった。E2F3dはE2F3aやE2F3cとは翻訳時のreading frameがずれているため、特定の一塩基を置換することでE2F3aとE2F3cではアミノ酸置換を起こさずに、E2F3dだけ終始コドンに変換して機能を喪失させることが出来る。E2F3dだけを特異的にノックアウトした細胞を用いることで、マイトファジーやミトコンドリアの品質管理におけるE2F3dの役割を検討する。 本年度は「E2F3dによるマイトファジー制御機構」を詳細に解析し、E2F3dの機能を阻害することで悪性がん細胞内のミトコンドリアの品質を悪化させ、最終的に悪性がん細胞だけを死滅させる方法の開発へと発展させることを目的とする。
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