E2Fファミリーは細胞周期の進行を制御している転写因子群である。なかでもE2F3aはがんの悪性化に伴い発現が上昇しており、悪性がん細胞の増殖促進に深く関与している。研究代表者はE2F3aの新たなスプライシングバリアントであるE2F3dを同定し、①ミトコンドリアに局在してマイトファジー受容体として働くこと。②悪性がん細胞においてミトコンドリアの品質管理を行っていることを明らかにした。 そこで、E2F3dによるミトコンドリア品質管理機構を破綻させた場合に、ミトコンドリアへのダメージが過剰に蓄積し、細胞死が誘導されるかを検討した。まず、E2F3dへの依存性を明らかにするため、E2F3dを特異的に発現抑制した細胞を一塩基置換ゲノム編集技術によって作製しようとしたが、大規模なオフターゲット効果が確認されたために断念した。そこで、E2F3dを含む複数のE2F3(E2F3a、E2F3c、E2F3d)の発現をCRISPR-Cas9システムで抑制した子宮頸がんHeLa細胞(E2F3 TKO細胞)を用いて検討を行った。ミトコンドリアに脱共役剤を用いてダメージを加えた時には、野生型のHeLa細胞と同様にE2F3 TKO細胞においても細胞死はほとんど誘導されなかった。一方、鉄キレート剤でダメージを加えた場合には、野生型の細胞には細胞死がほとんど誘導されなかったが、E2F3 TKO細胞では約30%の細胞に細胞死が確認できた。 以上より、「がんの悪性化」の過程において、E2F3aが悪性がん細胞の増殖を促進するだけでなく、悪性化の過程で加わるミトコンドリアへのダメージをE2F3dによるミトコンドリア品質管理機構が緩和し、細胞死の誘導を回避していると考えられた。そのため、E2F3ファミリーを標的とする治療薬の開発は、様々な方面から「がんの悪性化」を阻害する有効な手段になりえることが示唆された。
|