研究課題/領域番号 |
17K07186
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
水谷 アンナ 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子生物治療研究部, 研究員 (30615159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロRNA生合成 / タンキラーゼ / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
様々ながんで広くマイクロRNA(miRNA)の発現減少が認められることが知られているが、原因は明らかではない。本研究では、miRNA生合成に関わる複数の分子に、ポリ(ADP‐リボシル)化酵素であるタンキラーゼに結合するモチーフ配列があることに着目した。ポリ(ADP‐リボシル)化とは標的タンパク質にポリ(ADP‐リボース)鎖を付加する翻訳後修飾である。タンキラーゼによりポリ(ADP‐リボシル)化されたタンパク質は、物性が大きく変化するとともに、ポリ(ADP‐リボース)鎖がシグナルとなりユビキチン化による分解へと導かれる。ルシフェラーゼ・アッセイを用いた予備検討から、タンキラーゼがmiRNAを介したmRNA分解を抑制していることが示唆されるデータを得ている。miRNAを介したmRNA分解は、複数のステップからなる複雑なプロセスである。本年度は、タンキラーゼがどのステップに関与しているのか、詳細な検討を行った。miRNA生合成は、①pri-miRNAの転写、②pre-miRNAの産生、③pre-miRNAの核外輸送、④Dicerによるpre-miRNA切断、⑤RNA誘導型サイレンシング複合体の形成、の五段階から成る。タンキラーゼが調節しているのはどのステップか明らかにするためにタンキラーゼ阻害剤処理下において、複数のmiRNAについて、pri-miRNA、pre-miRNA、mature miRNAを定量的に検出することにした。このため、内部標準となるRNAの検討から行った。本年度の検討から、miRNA生合成のステップのなかでタンキラーゼが関与しているステップを明らかにすることができた。今後は、これらの結果を踏まえ、分子機序を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pri-miRNA、pre-miRNA、mature miRNAについて、定量的RT-PCRにて定量的に検出することを試みたが、内部標準を探すのに手間取ってしまったものの、適当な内部標準を見出すことができ、pri-miRNA、pre-miRNA、mature RNAの定量もできるようになった。HeLa細胞を用いた検討により、miRNA生合成のステップのうち、タンキラーゼ阻害剤処理により顕著に効率が下がるステップがあることを見出した。このことがほかの細胞にもあてはまる普遍的な現象なのか調べるために、A549細胞およびHEK293T細胞でも同様の検討をおこなったところ、そもそも発現しているmiRNAに差があるものの、HeLa細胞と同様の現象を認めた。Loss of function実験として、タンキラーゼ阻害剤を使用したが、siRNAによるノックダウン実験でも同様の結果になるか検討したが、siRNA処理により内部標準としているsmall RNAの発現が顕著に変動してしまい、複数のsmall RNAを試したものの適当な内部標準が見出せなかった。そこで、Loss of function実験として、PARP-DEADであるタンキラーゼの変異体を過剰発現させることにした。その結果、タンキラーゼ阻害剤処理時と同様の現象が観察された。これらの結果から、miRNA生合成のプロセスをタンキラーゼのPARP活性が促進していることが明らかとなった。当初は、miRNA生合成に関わる複数の分子にタンキラーゼ結合配列があったことから、それらの分子とタンキラーゼの結合に着目し、タンキラーゼが生合成のどのステップに関与しているか調べる予定であった。本年度は、タンキラーゼが直接作用する分子の同定はまだできていないものの、タンキラーゼがmiRNA生合成のどのステップを修飾しているのか明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、タンキラーゼがmiRNA生合成のどのステップを修飾しているのか明らかにすることができた。今後は、このステップを制御している分子に着目し、タンキラーゼによる制御機構の詳細を明らかにする。このステップに関わる分子は複数あり、いずれの分子にもタンキラーゼ結合配列がある。また、それらの分子の機能を制御している分子も複数報告されている。まずは、RNA結合能を有し、酵素活性を有するメインの分子と考えられる分子についての検討から行う。前年度の検討により、タンキラーゼのPARP活性がmiRNA生合成を促進することがわかっている。このことから、タンキラーゼがmiRNA生合成に関わる分子をポリ(ADP‐リボシル)化していることが考えられる。これまでのユビキチン化に関する検討経験から、酵素と基質の結合が一過性であり、結合を検出することが容易でないことも想定される。In silico解析で見出されたタンキラーゼ結合配列にアミノ酸置換を入れた変異体を用いるなど、過剰発現での実験を適宜行いながら、検討を進めていく予定である。また前年度は、定量的RT-PCRにてpri-miRNA、pre-miRNA、mature RNAの定量を行ったが、次年度は、内部標準の問題や各ステップによりフォーカスした実験系として、ルシフェラーゼ・アッセイの原理を用いた実験系を構築する予定である。miRNA生合成に関する実験は、これまでRIを用いて行われることが多かったが、RIを用いるのは必要最低限とし、できるだけ代替の実験を行う予定である。これにより、タンキラーゼがmiRNA生合成を制御しているメカニズムについて分子レベルで明らかにする予定である。
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