肺小細胞がんにおけるPI3K/mTOR経路を介したプリンヌクレオチド代謝制御機構の解明を目指し、研究を実施した。3年計画の最終年であり、当初計画していた研究を概ね達成した。核酸の構成成分であるプリン塩基生合成が、新規生合成経路かあるいは再利用経路を主に利用しているのか調べる目的で、2つの経路の活性比率を定量的に測定する実験系の構築した。同位体の種類、同位体の濃度と標識する時間の長さ、肺小細胞がんの細胞株、質量分析計の条件を決定し、メタボローム解析を行い興味深い結果を得た。プリンの新規生合成経路と再利用経路の生物学的な機能を解明する目的で、代謝経路に含まれる酵素HPRT1の遺伝子をノックアウトし、新たな肺小細胞がん細胞株(DH細胞: Deleted-HPRT1細胞)を少なくとも異なる3つの細胞株を用いて作製した。作製したDH細胞で、プリン塩基新規生合成経路を阻害する葉酸代謝拮抗薬を用いて、薬剤感受性試験を行った結果、親株に比較してDH細胞の感受性は明らかに高くなった。この結果は、肺小細胞がん細胞のHPRT1がプリン塩基再利用経路で重要な酵素であることを示唆している。DH細胞を用いて、新規生合成経路あるいは再利用経路由来の生合成比率を測定すると、再利用経路が欠失することにより新規生合成経路が活性化される結果を得た。この結果は、肺小細胞がんでプリン塩基再利用経路が核酸の生合成に重要であることを示唆する。さらに、細胞増殖能および腫瘍形成能を評価することにより、がん細胞での生物学的な機能の解析を継続して研究を行っている。
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