研究課題/領域番号 |
17K07190
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
服部 奈緒子 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (30611090)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / がん幹細胞 |
研究実績の概要 |
ヒストン修飾を認識するタンパク質「リーダー」は、エピジェネティック情報を細胞の表現系へと変換する重要な因子である。申請者はこれまでに、ヒストンリジンメチル化のリーダー「Cdyl2」が、マウスES細胞で高発現しており、正常な分化の進行に重要であることを見いだした。また、ヒトCDYL2が、乳がんで高発現をしていること、過剰発現によって幹細胞分画が上昇するという予備的結果も得ている。本研究では、ヒトCDYL2の乳がん幹細胞における役割を明らかにすること及びその阻害によるがん幹細胞の分化制御の可能性を検討することを目的とする。 当該年度では、【Aim 1:CDYL2 の乳がん幹細胞における役割の解明】に関して、昨年度に明らかとしたCDYL2高発現大腸がん細胞株を用いて研究を行なった。まず、siRNAによる一過性のノックダウンと行なったところ、CD44CD133陽性がん幹細胞分画が若干減少した。そこで、CDYL2ノックアウト細胞の作製へと移行した。効率の良いノックアウトを行うために、誘導型Cas9の細胞株を作成し、CRISPR/Cas9システムを用いた。その結果、36クローン中9クローンにおいて、両アレルにおけるCDYL2遺伝子領域の欠損・CDYL2タンパクの完全な消失が観察された。それらのクローンにおいては、がん幹細胞分画が有意に減少した。また、一部のクローンに関して、外因性のCDYL2を発現させたレスキュー実験を行なったところ、がん幹細胞の分画の上昇が確認された。【Aim 3:乳がん検体を用いた発現解析と予後解析】に関しては、複数のデータベースを解析したところ、CDYL2高発現群では、全生存率が低いという結果が得られた。以上のように、乳がんおよび大腸がんにおいて、CDYL2はがん幹細胞の維持に関与していることを示された。 本研究に関わる発表を、国内学会でポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、昨年度の明らかとした乳がんよりも適しているCDYL2高発現の大腸がん細胞株を用いた研究を行なった。siRNAによる一過性のノックダウンおよびCRISPR/Cas9システムを用いたノックアウト細胞株を作製し、CD44CD133陽性の幹細胞分画が有意に減少した。一部のクローンに関して、CDYL2を発現させたレスキュー実験も行い、がん幹細胞の分画の上昇を確認した。一方で、阻害剤の開発に関しては、投与濃度・細胞内への移行の解析が滞っている。 以上の状況から、おおむね順調と判断した
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今後の研究の推進方策 |
今後、当該年度の樹立されたノックアウト細胞株を用いて、がん幹細胞分画の割合への影響・薬剤感受性の変化・xenograft モデルを用いた腫瘍形成能・転移能の変化を解析する。 CDYL2の標的遺伝子を同定するために、ノックアウト細胞株、過剰発現細胞株、親株を用い、CDYL2 のChIP-seq によって標的領域を同定する。バルク細胞の結果から、がん幹細胞性に関わる遺伝子に着目し、FACS で単離したがん幹細胞を用いた少数細胞ChIP-qPCR を行う。がん幹細胞の維持の分子機構を明らかにするために、 CDYL2過剰発現細胞株を用いて、IP-WBを行い、結合タンパクの同定も行う
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