現在、大腸がんは、日本で最も罹患数の多いがんであるが、進行大腸がんは既存の治療法に抵抗性を示すことが多く、大腸がんの新機軸の予防・治療法の開発は急務である。新規大腸がん予防・治療薬の開発を目指して、われわれは、大腸がんモデルマウスの腫瘍組織を解析したところ、甲状腺ホルモンの活性化に重要な役割を果たす2型脱ヨウ素酵素(DIO2)の発現が、がん細胞ではなくて、腫瘍組織の間質細胞で上昇することを見出した。DIO2の阻害剤を投与すると、腫瘍成長が抑制されて、大腸がんモデルマウスの生存期間は延長した。 最終年度は、DIO2の発現が、がん細胞ではなくて腫瘍組織で上昇していることをin situ hybridizationを用いて、臨床検体にて実証した。またTCGAの大腸がんデータセット(COADREAD)を解析したところ、予後不良例が多いサブグループ(CMS4)において、DIO2の高発現症例が多いことも見出した。TCGAのデータセットをin silicoにて腫瘍微小環境構成成分ごとに分画してクラスタリング解析を実施したことろ、クラスタリング解析では、DIO2は線維芽細胞・血管内皮細胞クラスターに含まれていることを観察した。これらの実験データをまとめて、査読論文を出版した。欧米を中心とした疫学研究にて、甲状腺ホルモン異常と大腸がん発症には関連があることが示唆されている。より詳細な解析が必要ではあるが、申請者らのこの研究成果は、そのメカニズム解明への一助となることが期待される。
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